「文春オンライン」で人生相談の連載を持つお二人の初顔合わせ対談、「そもそも人生相談って何だろう」という話題から始まります。大根監督の大ファンだという燃え殻さん。監督に相談したい悩みがあるとのことですが、一体どんな悩みが……?
相談に対してマトモに答えない人生相談のほうが好き
大根 はじめまして、大根です。
燃え殻 はじめまして。緊張してます。
大根 まあ、飲みながらですから。じゃ、乾杯。
燃え殻 よろしくお願いします!
大根 で、俺たち、人生相談の連載をすることになってますけど、そもそもの話、燃え殻さんは人に相談ってしますか? 俺は、プライベートのことを誰かに相談したことが、おそらく生まれてから一度もないんですよ。
燃え殻 僕もほとんどしないですね。身も蓋もありませんが、相談って、しても解決しないじゃないですか? 基本的にそう思っているので、『中島らもの特選明るい悩み相談室』(集英社文庫)みたいに、相談に対してマトモに答えない人生相談のほうが好きですね。そして、解決するはずもないのに「相談」する人が後を絶たないのは、「相談したって始まらないけど、この人になら話してみたい」的なモチベーションからだと思うんです。今回、大根さんを指名させていただいたのも、相談がしたいというよりも、大ファンである大根さんとお話をしてみたかったからです。というわけで、すごく緊張しています……。
大根 ありがとうございます。唯一、それも飲みの延長線上で相談的なことをする相手は、俺の場合リリー・フランキーさんなんですけど、あの人も、らもさんみたいに相談しても適当なことしか言わないから、気持ち的に楽なんですよね。
燃え殻 考えてみれば、大根さんはすでに「UOMO」と「BRUTUS」でも人生相談的な連載をされていますね。
大根 はい。だからそこでは、なるべくはぐらかそう、真面目に答えないよう、そんなスタンスでやっています。だって、究極的に言えば「人それぞれ」で終わっちゃうから(笑)。だって俺、お前じゃないし、って。
燃え殻 そうなんですよね(笑)。
大根 という前提で、始めます!
燃え殻さんの小説読んで「何これ、俺の話?」って
大根 そうそう、燃え殻さんが「cakes」で連載してた小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』、あれ本当に面白かった。「すっごいよくわかる!」と思いながら読みました。俺は今年49歳になるんですけど、燃え殻さんは?
燃え殻 僕は43歳です。
大根 90年代のテレビ業界を中心とした東京のムードが、すごくよく描けているなと思いました。
燃え殻 ありがとうございます。僕、テレビの美術制作をずっとやっていたんで、たぶん大根さんとどこかですれ違っていると思うんです。90年代って、世の中的にはバブルが終わっていましたけど、テレビ業界ではまだちょっとその尻尾が残っていましたよね。
大根 テレビ業界はその余韻がけっこう長くて、たぶんゼロ年代くらいまでは、ギリギリバブル景気を引きずっていた。
燃え殻 90年代当時は、僕はまだ学生~働き始めたくらいの頃で、けっこう貧乏してました。でも、テレビの世界は華やかだったから「あぁ、まだ夢があるなぁ」と。
大根 でも、テン年代以降になると、さすがに景気が悪くなってきた。制作費がカットされたり、タクシーチケットも出なければ、領収書も落ちない。
燃え殻 外注が減って、うちのテレビ美術制作会社も倒産しそうになっていました。
大根 そうそう、燃え殻さんの小説読んでいて「何これ、俺の話?」と思うところが所々にあって。
燃え殻 あ、本当ですか。
大根 テレビのテロップを届けようとして事故った話あったじゃないですか? あれ、ものすごく身につまされました。俺がADをやってた頃は宅配システムがなかったから、発注したテロップを取りに行くのはADの仕事だったんです。俺もその最中に事故って、道にバーッとブチまけちゃったことがあった。
燃え殻 あの頃のテロップって、紙だったから、雨で濡れちゃったりすると使い物にならなくなってしまって大変でしたよね。
大根 自分のミスで1文字間違えてたりとかすると、もう地獄。
燃え殻 コンピューター上で直したりできない時代でしたからね。だから、誤植に気づいても「もういいや」と黙っていたりしたことも。あの時はゴメンナサイ……。