大根仁監督と燃え殻さんの「人生相談」対談はお酒も進んで佳境に。お二人にとっての共通体験「糸井重里」の話題から、サブカルとは何か、「第2作目」が重要な理由まで、お互い初対面とは思えない意気投合で盛り上がりました。
大事なのは次の作品なんじゃないかな
燃え殻 昨年秋に、糸井重里さんにトークイベントに呼んでいただいたのですが、「ねえ、大根さんの『SCOOP!』観た!?」と、すごい勢いで訊ねられましたよ。糸井さん、大根さんのこと大好きなんだなー、っていうのがすごく伝わってきました。
大根 俺もちょっとズルイところあるんだよね。おじさんを転がすのが得意なんですよ(笑)。末っ子だからかなぁ。
燃え殻 糸井さんって、遅れて来た「くすぶっていた人」が好きですよね。たぶん、僕を「面白い」と言ってくれた理由の一つは、そこにあるような気がしています。
大根 俺の場合も、そのパターンな気がする。
燃え殻 そうそう、この間、現代美術家の会田誠さんが僕をトークショーに呼んでくださったんです。なぜ会田さんが? と不思議に思って、お会いした時に「なんで呼んでくださったんですか」と訊いてみたんです。そしたら「たぶん、成功したオッサンがお前のこと好きなんだよ」と言われました(笑)。
大根 なるほど(笑)。俺は今、生活もそんなに余裕があるわけではないし、仕事についても不安だらけだけど、たぶん他人から見たら、そこそこ成功しているわけじゃないですか。自分でもその自覚はある。だからこそ、燃え殻さんの小説を面白がれるというのはあるのかもしれない。俺がずっと一緒に編集をやっている36歳の男がいるんだけど、ものすごくセンスがよくて、聴いてる音楽とか映画とかの趣味もだいたい合うんだけど、そいつに「これ、面白いから読んでみなよ」と燃え殻さんの小説を勧めたの。で、後日感想を聞いたら「若い頃のエピソードは共感するんですけど、今の燃え殻さんのポジションは、俺ちょっとまだわかんないですね」と言うんです。
燃え殻 なるほど。
大根 ちょっと上の世代の、余裕があるおじさんは「面白いね」と素直に言えるけど、かつての燃え殻さんと同じくらいの立場にいる読者は、共感より嫉妬を感じてしまうかもしれないね。別に苦言を呈するとかじゃないけれど、もし読者を限定してしまう要素があるとすれば、そこかもしれない。
燃え殻 それって……どうしたら解消するのでしょうか?
――なんか、今のが今日一番の、心からの相談だったかもしれないですね(笑)。
大根 俺は小説は書きませんけど、よく「誰でも一生のうちに1冊は小説を書ける」とか言うじゃないですか。それでいくと、大事なのは『ボクたちはみんな大人になれなかった』の次の作品なんじゃないかな。
作品と「俺」のちょうどいい距離というものがある
――では、燃え殻さんの真価が問われるのは2冊目である、と。
大根 最初の本が出るのもこれからなのに、そんなこと言われても……だよね(笑)。
燃え殻 いや、それまでの人生を総括すれば、1冊は小説を書ける。これはすごくよくわかりますし、僕の小説も、そういう性質のものだということは自覚しています。でも、その後も人生は続いていく。となると、もし次の作品を書くとしたら、1冊目と同様に「これまでの自分」を書いた方がいいのか、それとも「この先の自分」――すなわち「自分の好きな人に評価されて、ちょっと落ち着いた。でも、この先を考えるとやっぱり不安だらけ」な自分を書いた方がいいのか。そこがわからないんです。
大根さんは、マンガ家志望の少年たちが「週刊少年ジャンプ」での連載を目指すマンガ『バクマン。』を映画化されましたが、あの作品について「最初は『これは俺の話ではない』と思ったけど、でも作っていく過程で『あ、やっぱり俺の話だ』と思えた」と、どこかで語られていましたよね。そんなふうに、自分の外側にある「自分的なもの」も、今後変化したり、広がっていったりするものなのでしょうか?
大根 そう思いますよ。ジャンルは違うけど――そして、この言葉を使うのはサムいかもしれないけど――いわゆる表現者としてはたぶん、燃え殻さんと俺はタイプが似ていて、自分の知っている人とか自分の知っている世界しか描けないと思うんです。となると、とりあえず自分のことは書けたとしたら、次は、自分が知っている人とかのことを書けばいいんじゃないですか。
――自分を軸に、ちょっとずつ外側に広げていく、みたいな。
大根 そうそう。例えば、共感できる人のエピソードとかがあれば、必ずしも自分の経験を元にしなくてもいい、みたいな考え方もあります。『バクマン。』に関して言えば、あるタイミングで、マンガ家と編集者の関係が、映画監督とプロデューサーの関係に似ているなと気づいて、そこが共感ポイントになった。しかも、主人公たちが「少年ジャンプ」という、超王道な場所に挑んでいく話なわけで、それは俺が「東宝」という大メジャーなところで映画を撮るということと、重なる部分があるわけですよ。
燃え殻 いやぁ、勉強になります。
大根 あと、俺はオリジナル作品は書かないんですけど、それって自分の作るものより他人が作るものに興味があるからなんだよね。それに、ゼロから1にするよりも、才能と才能をくっつけたときに起きるケミストリーを楽しみに仕事をしているところがある。だから、編集者という仕事に共感するのかもしれない。
燃え殻 確かに、『バクマン。』も『SCOOP!』も編集部が舞台ですものね。
大根 ただ、『SCOOP!』はね、福山雅治が演じたキャラクターが自分に近過ぎたかもしれない。……つまり「俺の話」になりすぎても、それはそれでやりづらい部分はある。そういう意味では、『バクマン。』くらいが作品への距離感も含めてちょうどよかったのかもしれないですね。
――では、もし燃え殻さんの小説を映画化してください、と言われたら?
大根 もうね、ビジュアルとかメチャクチャ浮かぶんだけど、あまりに近すぎて、俺には手が出せないかなぁ。監督する場合は、作品と適度な距離があった方がいいと思いますよ、自戒も含めて(笑)。