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「所持金3400万円」「右手指がすべて欠損」兵庫のアパートで孤独死した“謎の女性”…1年かけて正体をつきとめた記者2人の“徹底取材”

『ある行旅死亡人の物語』著者インタビュー #1

2024/04/13

genre : ライフ, 社会

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 2020年4月、兵庫県尼崎市のとあるアパートで、女性が室内の金庫に3400万円を残して孤独死した。身元不明の死者「行旅死亡人」として官報に掲載され、住民票も抹消されていた彼女の正体とは?

 “謎の女性”の身元を取材し、その半生に迫ったルポ『ある行旅死亡人の物語』(毎日新聞出版、2022年)を上梓した共同通信記者の武田惇志さんと伊藤亜衣さん(現在は退職)に、“真相”にたどり着くまでの経緯を聞いた。(全2回の1回目/2回目に続く)

『ある行旅死亡人の物語』(毎日新聞出版)の著者・伊藤亜衣さんと武田惇志さん(撮影=西川裕人)

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現金3400万円を残して亡くなった「行旅死亡人」の記事を発見

「行旅死亡人

 本籍(国籍)・住所・氏名不明、年齢75歳ぐらい、女性、身長約133cm、中肉、右手指全て欠損、現金34,821,350円

 上記の者は、令和2年4月26日午前9時4分、尼崎市長洲東通●丁目●番●号錦江荘2階玄関先にて絶命した状態で発見された。死体検案の結果、令和2年4月上旬頃に死亡。遺体は身元不明のため、尼崎市立弥生ヶ丘斎場で火葬に付し、遺骨は同斎場にて保管している。

 お心当たりのある方は、尼崎市南部保健福祉センターまで申し出て下さい。

令和2年7月30日

兵庫県  尼崎市長 稲村 和美」

 2020年6月1日、何気なく官報の情報を眺めていた武田記者の興味を強く惹いたのは、ある行旅死亡人に関する記事だった。

 行旅死亡人とは、病気や行き倒れ、自殺等で亡くなり、名前や住所など身元が判明せず、引き取り人不明の死者を表す法律用語。行旅病人及行旅死亡人取扱法により、死亡場所を管轄する自治体が火葬。死亡人の身体的特徴や発見時の状況、所持品などを官報に公告し、引き取り手を待つ(『ある行旅死亡人の物語』より)。

 官報によると、その行旅死亡人は身長が133cmほどと非常に低く、右手指がすべて欠損。さらには現金3400万円あまりを残して亡くなっている。何か、普通ではないことが起こっているのではないか。武田記者は、そう思ったという。

武田記者が行旅死亡人の情報に目を奪われた理由

――武田さんは初めてこの記事を見つけた時、どのような思いを持たれましたか。

武田 もともと、官報に掲載されている「行旅死亡人」の公告記事をまとめた民間のサイトが好きで、定期的にチェックしていたんですね。何か記事になりそうなネタを見つけたいという思いもありましたし、単純に読むのが面白かったので。あまりいい趣味とは言えないかもしれないんですけど。

 そこを管理されている方が、行旅死亡人の所持金の額でランキングを作っていて。それで1位になっていた女性の情報に目を奪われたんです。

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