世界的巨大ターミナルから1日に数人しか使わないような小駅まで、日本には9000もの駅があるという。日夜乗っている電車の終点もそんなたくさんの駅のひとつだが、えてして利用者の多くはその手前の「いつもの駅」で下車してしまう。

 そうした様々な終着駅を歩き続けた鼠入昌史氏の著書『ナゾの終着駅』より、一部を抜粋して掲載する。

◆◆◆

ADVERTISEMENT

 新宿で、そして東京で。上野東京ラインや湘南新宿ラインに乗るときによく見る行き先はいくつかある。南行きなら「小田原」、北行きなら「高崎」「宇都宮」。まあこの辺だったらよく知っている。

 小田原は小田原城が有名だし、宇都宮は餃子で高崎はダルマだ。行ったことがなくとも、それなりに大きな駅なんだろうと想像できる。

 だが、そんな中で気になる行き先がある。そう、籠原。地元の人でもない限り、籠原駅に行く機会なんてなかなかない。電車の行き先で耳にするくらいなものだろう。

 

 でも、そんな籠原行きの電車、結構多くて昼間から1時間に1本ペース。夜の22 時台に東京駅を出発する籠原行きは、1時間に3本もある。

そもそもなぜ「籠原行き」が多いのか

 籠原駅は、熊谷駅のひとつ先にある。熊谷駅は言うまでもなく新幹線も停まる埼玉県北部を代表するターミナルだ。

 つまり籠原駅は新幹線のターミナルから見ると衛星的な小駅に過ぎない。なのに、なぜ籠原行きの電車が走っているのか。その答えはシンプルで、車両基地があるからだ。それ以上でもそれ以下でもなく、籠原という駅に特別な何かがあるわけではない……と思う。

 とはいえ、実際に行ってみなければほんとうのところはわからない。そういうわけで、はるばる高崎線に乗って籠原駅にやってきたのである。

 

 籠原駅を“終着駅”たらしめている車両基地。1969年に籠原電車区が設置されて以来、高崎線の運転上の要所になっている。今でも籠原運輸区があって運転士や車掌が所属しているし、高崎車両センター籠原派出所がホームのすぐ脇に広がっている。

 籠原駅から北は、10両編成までしか乗り入れることができない。だから15両編成の高崎線は籠原駅で5両だけ切り離すことになる。おかげで、籠原駅には取り残された短い5両だけの電車が寂しく佇んでいる。