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「所持金3400万円」「右手指がすべて欠損」兵庫のアパートで孤独死した“謎の女性”…1年かけて正体をつきとめた記者2人の“徹底取材”

『ある行旅死亡人の物語』著者インタビュー #1

2024/04/13

genre : ライフ, 社会

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取材開始後、誰かに尾けられているような気配も…

――田中千津子さんの部屋を訪れた際、気になったところはありましたか。

伊藤 古いアパートに住んでいるのに、セキュリティをすごく厳重にしていたところです。ご自身で取り付けたようなんですが、玄関ドアにチェーンが2つ、居間には警報アラームまでありました。少し不気味に感じたのを覚えています。

 それもあってか、取材を始めて1ヶ月くらい、なんだか誰かに尾けられているような気がしてしまって。怖くなって、夜に戸締りを意識して気を付けるようにしていました。

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武田 そんなことを言われたものだから、僕もビビりますよね(笑)。

――書籍の中では「田中千津子」さんの身元解明に向けておふたりが聞き込みを行なっていきますが、だいたい全部で何人くらいの方からお話を伺ったのでしょうか。

武田 1年くらいかけて取材して、声をかけた数でいうと100人くらいいってるかもしれないですね。

「タナカチヅコ」さんと思われる女性の写真(著者提供)

広島取材で判明した千津子さんに関する新事実とは?

 2人は、遺品のひとつとして保管されていた印鑑から、田中千津子さんの本来の姓を推定。その後、その名字の「ルーツを探る」というブログの運営者とつながり、その人が自主的に作成していた家系図を埋める形で、取材を進めることになった。

 ルーツがあると見られる広島県に足を運び、わずかな手がかりを頼りに聞き込み取材を重ねた結果、千津子さんに関する新事実が次々と判明。DNA鑑定なども経て、彼女の身元を確定するところまでたどり着く。

――取材に本腰を入れ始めたのは、どのタイミングだったのでしょうか。

武田 千津子さんの身元がわかってからですかね。最初は何もわからない状態だったのですが、千津子さんのアパートから見つかった印鑑の「沖宗」という姓がどうやら広島に多いらしい、ということがわかりました。多いといっても全国に100人ほどしかいない珍しい名字だそうですが。

 それで、各地の沖宗さんと連絡を取って家系図を作ると、やはり広島県内に可能性がありそうだとわかって。とりあえず広島に行ってみようということになりました。

伊藤 そうしたら、1回目の訪問の後に千津子さんの親類の方が見つかりました。当時、まだ記事にできるかどうかもわからなかったのですが、「じゃあもう一度、広島に行って詳しく調べないとね」となりました。そして、2回目の訪問で今度は千津子さんの同級生に出会ったんです。

――それから、広島には足繁く通うようになったのですか。

伊藤 計3回ですね。幸運なことに、広島に赴くたびに手がかりが見つかったので、自然と現地取材が続いたような状況です。

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