10年以上前から性風俗の世界では、女性の供給が男性の需要をはるかに超え、異常なデフレ状態となっている。価格はバブル期と比較して、1人あたりの報酬は半減、月収は6~7割減。女性はカラダを売っても、苦しい生活から逃れられない現状にあるのだ。

 ここでは、過酷な境遇にある女性たちの生き様を描いた、ノンフィクションライター・中村淳彦氏の著書『貧困女子の世界』(宝島社文庫)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の2回目/1回目から続く)

写真はイメージです ©iStock.com

父親の介護がきっかけで精神崩壊

 2021年2月8日、東京は2度目の緊急事態宣言の真っ最中だった。自粛が叫ばれてから早くも1年近くが経ち、平日14時の池袋は何事もなかったように人出が見られた。閑散としていた2020年4月の緊急事態宣言時とは、まるで状況は違っている。

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 池袋駅北口にはチャイナタウンとラブホテル街があるため、周辺は売買春や風俗の待ち合わせ場所として知られる。北口駅前は東京のなかでも有数の怪しい場所であり、狭小な出入口からひっきりなしに行き来する人々は、風俗客や風俗嬢、中国人や反社会勢力関係者などの比率が著しく高い。

 北口駅前にある老舗喫茶店は満席だった。店内を覗くと怪しげな人々の3密状態で、それぞれがマスクを外して熱心に会話している。

 西口に移ってみた。池袋の無店舗型М性感ヘルスに勤める錦城愛菜さん(仮名・22歳)に店名を添えたLINEを送ると、すぐにやってきた。

貧困ではなかった家庭環境

 愛菜さんは多摩地区にある中堅理系大学4年生。留年が決まって来年も大学生だという。彼女が従事するМ性感ヘルスとは、言葉責めや前立腺マッサージなど、女性から責めるプレイが基本の業態だ。

「一昨年、お父さんが脳出血になってから母親と一緒に父親の介護の日々でした。父親はほんとに横暴でメチャクチャな人で、男尊女卑みたいな感覚がすごくて、とにかく私に八つ当たりする。この状態が続くと、もう自分が壊れるなってギリギリな感じでした」

「話したい!」という前向きな雰囲気だった。すぐに親の話が始まった。

 父親は71歳、母親は67歳。彼女は年齢を重ねた両親から生まれた。大学2年のとき、父親が脳出血を起こして介護が始まる。軽い麻痺が残る状態で要介護1の認定が出た。軽度な要介護状態である要介護1、2は、本人が動けるしコミュニケーションが取れるため、介護者が最も大変な状態だといわれる。