10年以上前から性風俗の世界では、女性の供給が男性の需要をはるかに超え、異常なデフレ状態となっている。価格はバブル期と比較して、1人あたりの報酬は半減、月収は6~7割減。女性はカラダを売っても、苦しい生活から逃れられない現状にあるのだ。

 ここでは、過酷な境遇にある女性たちの生き様を描いた、ノンフィクションライター・中村淳彦氏の著書『貧困女子の世界』(宝島社文庫)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の1回目/2回目に続く)

写真はイメージです ©iStock.com

34時間、風俗店に待機

 2020年4月24日17時30分、池袋。現役女子大生・仁藤美咲さん(仮名・20歳)と待ち合わせた。仁藤さんは医療福祉系大学に通いながら、池袋でデリヘル嬢をしている。17時に店が終わり、そのまま会うことになった。

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 やって来た仁藤さんは黒髪、理知的、清楚な女の子だった。誰も風俗嬢とは思わない見た目で、絵に描いたような優等生という印象だ。

「〇〇大学の理学療法学科です。就職先はまだ全然決まってなくて、コロナで実習が進まないのでどうなるかわかりません。本当は4月、5月は病院で実習だったけど、中止になりました。学校が休みの今のうちに働いておこうって、3月上旬に休校になってから毎日出勤しています。これから別の地域のデリヘルに出勤で、朝までやります」

 今日のスケジュールを聞くと、かなり過酷だった。

 朝9時にデリヘルの待機所に出勤、17時まで勤務。今日は3人のお客がついて2万7000円になったという。そして我々の取材を受け、終わり次第、電車で30分以上かかる別の繁華街のデリヘルに出勤する。そこで朝5時まで勤務して、そのまま池袋に移動して朝9時に出勤する。移動時間を含めて34時間、風俗店に待機してお客をとるという。

“親が面倒を見るのは義務教育まで”という家庭方針

 明治時代の遊郭を描いた1987年公開の映画『吉原炎上』では、吉原に人身売買で売られた女性の悲劇が描かれたが、正直、仁藤さんの状況はたいして変わらない。

「大学の学費は高いです。春に120万円納入で、秋に55万円なので教科書とか雑費を含めたら年間200万円近く。それが4年間です。奨学金は一種と二種を満額借りて、入学当初は足りるって計画が立っていたけど、全然無理でした。どうにもならなくなって、大学2年夏から風俗です。私の家の方針では、大学は義務教育じゃないし、行かなくても高卒で就職できるんだからお金は自分でやりくりしろって。奨学金一種と二種をあわせて月18万円を借りて、足りない分は高校時代のアルバイトで貯めた貯金を使っていました。1年ちょっとで尽きました。部屋は大学の寮みたいなところで4万円と安いけど、ほとんど大学と待機所で過ごしてるんで光熱費はかかってないかな」