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 母親は元小学校教員、父親は無職で主夫、貧困家庭ではなかった。父親は家父長制の権化みたいな性格で、その性格は要介護状態になってさらに先鋭化した。横暴で偉そうな父親を母親と愛菜さんが分担して介護することになった。

バイト・介護・学業の三重苦

「父親は毎日、毎日『俺は1人で死ぬんだ!』みたいなことをずっと叫んでて、母親と私がヒステリーの的みたいな。1人だと不安なので誰か視界にいてほしかったみたいで、身体介護というより、ヒステリー男の話し相手でした。もう死ぬからって叫びながら、次の瞬間にモノを投げてくるとか。半年くらいそういう状態が続いてウンザリしました。もう、いろいろ重なって狂いそうになっちゃって」

 問題は父親の介護だけではないようだ。まず、気になったのは自宅から大学が遠すぎること。通学で2つの県を越している。聞くと、やはり往復5時間。理系なので授業もゼミも厳しく、さぼるようなことは許されなかった。一限に出席するため、朝6時に家を出た。ゼミが始まってからは、帰宅は連日22時過ぎとなった。 

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「実験室のゼミで課題がたくさんあって、それに父親の介護、家の家計もだんだん怪しくなってきました。介護が始まってしばらくしたとき、母親から今までどおりに学費の援助はできないからバイトしろっていわれた。それにブラック研究室に配属されて、夜遅くまで自主的に研究して、みっちり時間をかけて研究論文もちゃんと書けって。それに必死に就職活動しろって。3年になってゼミが始まって、母親にバイトも求められて、完全に破綻しました。本当に苦しいのに、父親は暴言を吐くばかり、母親はお金がない、お金がない、と嘆き出し、先生はとにかく死ぬ気で研究しろみたいな。誰にも私のシンドさが通じなくて、最終的には自殺未遂までしちゃったんです」

 混み合う喫茶店の真ん中で、愛菜さんは声をあげて泣き出してしまった。客層が普通ではない店である。若い女性が泣いていても、誰も気にもとめない。

スカウトマンが「お金は特効薬」

 突然、情緒が不安定になった。話そうと思っているうちに、介護とゼミが始まった2年前の混乱を思い出したようだった。涙が止まるのを待って、ゆっくり聞くことにした。

「学費は全額母親に払ってもらっていたわけではなくて、第一種奨学金(無利息だが返済は必要)を借りていました。全部学費に充てていて、母親に足りない分を払ってもらっていた。でも、父親の介護が始まって負担ができないってなった。突然そんなことをいわれたら、風俗やるしかないじゃないですか。ただでさえ眠る時間もないのに、それ以外に方法はないです」