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中川 充四郎
2017/03/31

【西武】辻発彦監督の武器は“気遣い”と“コミュニケーション力”

文春野球コラム ペナントレース2017

「分かっているよな」9月のある日、辻発彦の携帯が鳴った

 3年連続Bクラスに低迷するチームでは、評論家の順位予想が低くなるのは当然かと思われます。ましてや、二桁勝利が計算できるエース・岸孝之のFA流出は、戦力ダウンと見るのが普通でしょう。しかし、指揮官の交代を重視していない見方が、戦う上で有利になりそうな気がします。埼玉・西武は今季から辻発彦監督の下でペナント奪取に臨みます。

昨年秋に西武第二球場にて ©中川充四郎 

 昨年の9月中旬のこと。シーズンも終盤を迎えたある日、辻発彦の携帯が鳴りました。発信元は西武の鈴木葉留彦球団本部長。第一声が「(この電話の意味は)分かっているよな」のひと言。当時は、田辺徳雄前監督が辞任を表明して次期監督が話題になっている時でした。「はい、分かっています」と答え、その後はトントン拍子で話が進み、新監督が誕生しました。

 この時点では西武の新監督人事について、いろいろな人物の名前がメディアに挙がっていましたが、球団としては一本に絞っていたようです。辻監督は、1995年まで選手として在籍。この年球団サイドは、翌シーズンから二軍のコーチとして考えていましたが、話の行き違いがあり本人が固辞しました。そこから古巣との縁が遠ざかったのも事実です。そしてヤクルトに移籍し、現役からコーチ稼業。その後、中日のコーチや二軍監督を務めました。

 ただ、ユニフォームを脱いでいる間に地元のテレビ局の解説も務めましたので、西武の取材に訪れることもありました。その時、バリバリのレギュラーを張っていた中島宏之(現オリックス)がアドバイスを求める場面をしばしば目にしました。パフォーマンスで大きなジェスチャーを交え、グラウンド内の取材陣の見える位置で指導する人を目にしますが、解説者・辻は中島を連れてベンチ裏に消え、人目につかないところでアドバイスを送っていました。それぞれ球団の担当コーチの立場がありますので、これはとても大事な気遣いなのです。

現役時代の口グセは「イージー、イージー!」

 1983年11月22日に行われたドラフト会議でのこと。西武は東海大・高野光を1位指名しましたが抽選で外れ、別の候補を絞っていました。「日本通運・辻発彦」で大方決まりかけていましたが、広岡達朗監督が「前橋工の渡辺(久信)が残っているな」とポツリ。やはり監督の発言力は強く渡辺(現球団本部シニアディレクター)が1位指名されました。

 社会人の野手がドラフト1位で指名されることは珍しいことなのですが、「ドラ1・辻」は実現しませんでした。しかし、2位で指名し、獲得に成功。その時の選手プロフィール欄に「スラッガー、大型三塁手」の文字が載っていた記憶があります。ところが、プロ入りしてから意識を変え、バットを短く持ちアベレージヒッターを目指し成功。93年には首位打者のタイトルを獲得しています。バットコントロールが巧みな選手も、ここだけの話、バントが苦手だったのです。セーフティーは得意でも、最初から構える送りバントが不得手でした。イメージではうまく転がすシーンが浮かびますけどね。

 入団1年目のアリゾナ・メサで行われた春季キャンプのメンバーに選ばれました。この時、広岡監督のノックを「さぁ来い!」、「もう一丁!」など大きな声を出しながら「ケンカ腰」で受けていたシーンは忘れられません。「元気なルーキーが入ってきたなぁ」が私の第一印象。この広岡監督から指導を受けたことで「名手・辻」が誕生したことは誰もが認めることです。

「イージー、イージー!」

 これ、現役時代の口グセです。好プレーを披露しベンチ裏に顔を出した際に「ナイスプレー!」と声掛けした時のお馴染みの返事。普通は「ありがとうございます」なのですが、名手は違いました。多少格好つけの部分もあったでしょうが、レベルの違いを痛感しました。辻家にある宝物。86年に開催された日米野球に参加した時に「オズの魔法使い」と称されていた守備の名手オジー・スミス(当時セントルイス・カージナルス)のサイン入りのウインドブレーカー、今でも大切に保管しています。

現役時代の辻発彦の後援会パーティー(右は鹿取義隆) ©中川充四郎

エラーを減らすために必要な“適度な表情”

 昨季の西武は失策数が101個と12球団ワースト。これが勝負の分かれ目となったケースも数多くありました。とくに目に付いたのが、投手も含む送球エラー。野球にエラーは付き物といわれますが、練習で技術を磨くことと併せて精神面も大事ではないでしょうか。その辺りは、選手とのコミュニケーションが上手な辻監督の得意分野と思われます。

 試合中のベンチでの監督の表情は、選手たちに敏感に伝わります。喜怒哀楽を全面に表すタイプの監督もいますが、適度な表情(難しい表現ですが)で采配をとるのが求められます。かつては、仏頂面全盛時代もありましたけど、今は流行りません。今季の辻新監督のベンチの表情もチームの成績とともに注目したいところです。

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。