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現役引退した上原浩治が作家・万城目学と振り返る「孤独だったからこそ強くなれた、ぼくらの雑草時代」

現役引退した上原浩治が作家・万城目学と振り返る「孤独だったからこそ強くなれた、ぼくらの雑草時代」

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「何したらいいんだろう?」というのが本当の気持ち

万城目 僕もこんなふうに商売のタネになっているし、浪人したり無職になったり、いっぱい失敗してきたことは案外悪くなかったのかなと思っています。

上原 僕も一浪して、同世代の選手は誰もしていない回り道をたどったことで「なにくそ」と思えたのは、自分の闘志を燃やすためのいい燃料になったと思います。でも、経験しなくていいんだったらしたくなかった。

万城目 まあ、そうですね(笑)。上原さんの引退会見で、記者のみなさんが「この先は?」って聞いてたじゃないですか。あれは何なんですかね。「焼き肉屋を来月オープンさせる」とか明確に語ったら、それはそれで顰蹙(ひんしゆく)ものじゃないですか。引退したその日に「この先」を考えてるほうがおかしいだろうと思うんですけど。

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上原 だから「何も考えてないです」って言いましたね。今も真っ白です。「何したらいいんだろう?」というのが本当の気持ちです。

 

万城目 引退すると決めた瞬間のエピソードが印象的でした。上原さんはその日に起きたイヤなことや不安に思っていることを、その日のうちにリセットされるんですよね。

上原 次の日にイライラやモヤモヤを持ち越しても自分が損するだけじゃないですか。どこに当たっていいかも分からないし。だったら、日付が変わればスパッと「もう終わったこと」と切り替えるようにしていたら、それが当たり前になっていった。でも、「現役でまだやれるのか?」という不安をリセットできない日があって、すぐに引退を決めたんです。

いまは明るい浪人生活です(笑)

万城目 潔いですよね。もちろん、無意識にいろいろと自分の中で溜まっていたものがあるからこその決断だったとは思うんですが。じゃあ今は2度目の浪人生活、みたいな感じですか?

上原 そうですね。ただ、1度目とは気持ちのラクさは比べ物にならないです。19歳のときは過去に培ったものが何もなくて「この先どうなるんだろう」という不安ばかりの、苦しみの浪人生活でしたから。今は自分なりに野球をやり遂げたって過去があるから、ぜんぜん苦しくないですよ。明るい浪人生活です(笑)。

万城目 小説家は、野球選手のような引退がないんです。アイデアや気力がなくなったら筆を折るしかないけど、今はまだ「これもやりたい」「あれもできそう」といっぱい浮かんでくる。そうそう、来年あたり野球の話を書くんですよ。今日、上原さんからいろいろと伺った話、活かせるなって思っています。

上原 また4月3日生まれの誰かを出してください(笑)。「上原くん」でも大丈夫ですよ。

万城目 真剣に考えさせてもらいます(笑)。

取材・構成 吉田大助 撮影・杉山拓也/文藝春秋

まきめまなぶ/1976年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。卒業後は化学繊維メーカーに入社。無職時代を経て、2005年に『鴨川ホルモー』でボイルドエッグズ新人賞を受賞しデビュー。最新刊は小誌連載「人生論ノート」を改題したエッセイ集『べらぼうくん』。現在、「小説幻冬」で「ヒトコブラクダ層ぜっと」を連載中。

うえはらこうじ/1975年、大阪府生まれ。東海大仰星高校から大阪体育大学を経て、98年にドラフト1位で巨人に入団。2009年、FAでオリオールズに移籍し、13年にはレッドソックスでクローザーとしてWS制覇に貢献。18年に巨人に復帰。今年、現役引退。新刊に『OVER 結果と向き合う勇気』がある。

べらぼうくん

万城目 学

文藝春秋

2019年10月11日 発売

OVER - 結果と向き合う勇気 - (JBpressBOOKS)

上原 浩治

ワニブックス

2019年10月17日 発売

 

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