今年からプロ野球・巨人軍の監督に復帰した原辰徳読売ジャイアンツ監督。日本シリーズではソフトバンクに敗れ、日本一奪還はならなかったが、低迷していたチームを立て直し、5年ぶりのセ・リーグ制覇に導いた手腕に改めて注目が集まった。
積極的に若手にチャンスを与える選手起用法や、時に中心選手の坂本勇人にも送りバントを命じる大胆な采配や用兵のあり方など、スポーツライターの鷲田康さんが聞き手となり、原監督が自身のチームマネジメント術のすべてを発売中の「文藝春秋」12月号で語っている。
監督退任後に何度も読み返した二冊の本
「手遅れは最大の愚策」
「新しい人材の発掘にはまず固定観念に囚われないこと」
「リーダー意識を持たない組織は決して強いチームになれない」
インタビュー中に発せられた原氏の言葉には、プロ野球の世界だけに留まらない“奥行き”があった。その背景には最初に監督(2002年~03年)を退いた後に行った「勉強」が影響しているという。特に強調したのが、何度も読み返したという二つの古典についてだ。
指導者として必要な知識や考え方とは?
「監督、指導者としてどういう知識や考え方が必要なのか。野球界だけでなくサッカーやラグビーなど他の競技の世界の人にも会い、スポーツ界だけではなく政財界の第一線で活躍されている方々やミュージカル、歌舞伎など文化芸能に関わる一流の方の話も聞きました。
本も色々と読みましたね。コーチ時代にも読んだ宮本武蔵の『五輪書』と『孫氏の兵法』をまた勉強し直したのもこの頃でした。
『五輪書』は地、水、火、風、空の巻があり、戦って勝つことをストレートに追求し、いかに勝つ方法を身につけるかという教えです。一方の『孫氏の兵法』は『彼(敵)を知り己を知れば百戦殆うからず』と様々な情報を得ることで、戦わずして勝つことを最良とする。言ってみれば二つは相反する戦いの書ですが、どちらにも理がある。改めて読んでみると二人の兵法は状況や環境、見えてくる景色に対する洞察が鋭く、野球のフィールドだけでなく様々な場面で身近に感じることが多かったです。自分の中では未だに結論は出ていませんが、改めて勝つということの奥深さを学び、知ることができた。その後の監督としての心境を大きく変えてくれた本だったと思います。
そうした背景を得ることで、二回目に監督をやったとき(2006~15年)には、同じ巨人という風景の中でも、私自身の心境はかなり変わっていました。自分の骨子がどこかに描けている状態で、物事に立ち向かうことができていた。そして三度目の監督となった今回(2019年~)も、その延長線上で自分の立ち姿というのがあると思います」