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大井 智保子
2017/04/14

【広島】“炎上騒ぎ”の加藤拓也、外れドラ1スターへの道を突き進め

文春野球コラム ペナントレース2017

「カープファンのみなさまおめでとうございまーす\(^-^)/」

 あの日の緒方孝市監督の名台詞をジェスチャー付きで言いたい程、昨年の勝負強さを継続しての10連勝。昨年のセ・リーグ王者広島東洋カープは、対戦した4球団全てに勝ち越し、首位を争う巨人には3連勝。ただ今首位をぶっちぎりで独走中! 気が緩むとニヤケている自分に何度も出くわす、春はやっぱり鯉の季節。

 とはいえ、ここまでの10連勝。決して順風満帆ではなく、ハプニングを乗り越えての結果なので、喜びはひとしおだ。

 開幕戦では昨年の沢村賞・ジョンソン投手が、3回途中で5四死球を与え7失点とまさかの惨敗。さらには、守護神の中﨑翔太投手が離脱し、5時間24分の記録的長時間試合があったり、703日ぶりに先発登板した大瀬良大地投手が6回無失点ながら勝ちが消えたり……と様々な問題が起こっていた。

 そんな中でも最大のハプニングである“ジョンソンの危機”を乗り越えられたのは、オープン戦中のインタビューが発端となり、ネットで叩かれていたある若鯉のおかげであった。

ドラフト1位ルーキーの加藤拓也 ©時事通信社

「ふてぶてしい」「生意気」と炎上

「このインタビューだけで加藤を応援する気なくなった」と言った人は今、「加藤ーーっ」て叫んどるんかなぁ。

 加藤コールで一体となったマツダスタジアムでわたしはふと考えていた。

 ネットで叩かれる加藤といっても、加藤紗里ちゃんではない(ごめんなさい)。カープの“外れ外れ1位”ルーキー加藤拓也投手だ。

 3月20日。オリックスとのオープン戦に先発した加藤投手は、降板後のインタビューの対応が“ふてぶてしい”“生意気”と問題になり、ネットを中心に炎上。

「こいつなんでこんなに喧嘩腰なん」

「慶応だからって生意気だ」

「このインタビューだけで加藤を応援する気なくなった」

 そんな加藤投手に対する悪評が、インターネットの世界で瞬く間に拡散されていく。野球選手ならば打たれることで悪く言われることもあるだろう。でも、プレー以外のことでルーキーが叩かれるのは、見ていてとても悲しかった。 

回ってきたチャンス

 皮肉にも開幕ローテには入れなかった加藤投手だったが、想定外の事態でチャンスはすぐに回ってきた。ジョンソン投手が開幕の登板後に体調を崩し、突然の登録抹消。その代役に選ばれたのだ。

 開幕戦を落としたカープは、その後の阪神、中日戦を勝ち越し、引き分けを含めて4連勝と大奮闘。強力助っ人不在の不安と連勝の期待を一身に背負った若鯉が、4月7日ヤクルトとの表カード初戦、本拠地でプロ初のマウンドに立った。

 初回はトリプルスリー山田哲人選手を空振り三振に仕留めるなど、ヤクルトの強力上位打線を見事3人で抑える鮮烈なデビュー。2回には4番バレンティン選手もあっさりとセンターフライに打ち取りペースを掴むと、気がつけばとんとん拍子で回が進み、6回が終わる頃には、スタンドが徐々にざわつき始めていた。

ルーキー初登板ノーヒットノーランの大記録へ

 8回まで124球。0が連なるスコアボードを前に、若鯉はバットを握った。4点リード。2死二、三塁。次の回に備え無理に打たなくてもいい場面で、加藤投手はフルスイングの空振りをやってのける。その姿は大喝采の拍手に包まれ、もう彼を応援しない者は誰もいなかった。

 9回表、三振直後の彼がマウンドに上がると、開幕後最高潮と言って良いほどの大歓声が沸き起こった。そして、1死一塁。この日投じた132球目を4番が完璧に捕え、打球は三遊間を抜ける。ノーヒットノーランの夢が破れた。それでも次の瞬間、球場には、さらなる大拍手が起こっていた。

「よくやったぞ加藤ーー!」「お疲れ様加藤ーー!!!」

 結果は2安打1失点。9回1死まで我々に夢を見せてくれた若鯉の135球は、大記録達成ならずとも、開幕前に燻った火を消すには充分な、汗と涙と声が交じり合っていた。

「今、すごくホッとしています」

 プロ初登板・初勝利を挙げたルーキーは、緊張した面持ちで臨んだお立ち台で初々しくも力強くインタビューに答えてくれた。最後には鈴木誠也選手からの“水かけ”の洗礼も受け、はにかんだ笑顔を見せる。その様子にホッとしたのは私だけじゃないだろう。本当に嬉しかった。

 後日、あの炎上騒ぎに関して、加藤投手と大学の4年間を共に過ごした仲間が「あいつはメンタル強いんで、笑ってました」と教えてくれた。私の心配は不要だったみたいだ。

 連覇を狙うチームに黒田さんはいない。でも、今年のカープには、黒田さんをプロの世界に導いた苑田スカウトが自信を持って評価する加藤投手がいる。

 周りの目を気にしない芯の強さ、自信と度胸。ダイナミックな投球姿に暴れる球筋。そして、ぶっきらぼうなインタビューも、お立ち台でのはにかみも、先輩のInstagramで見せるとびっきりの笑顔も。色んな加藤拓也を見届けていくことが、今シーズン、私にとって楽しみのひとつとなりそうだ。

 巨人の坂本勇人選手、小林誠司選手、ヤクルトの山田哲人選手、DeNAの山﨑康晃投手と、プロ野球界のスターがびっちり揃っている外れドラ1。カープの外れ外れドラ1は、外れドラ1スターへの道を、今ゆっくりと進みはじめた。加藤君、今夜も楽しみにしとるけんね!

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。

対戦中:VS 阪神タイガース(山田隆道)

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