まつ手類ゾ赤必ま強

 カープファンの皆さまは、この題名だけで何のことだかお分りだと思う。

2月1日の中国新聞 ©大井智保子

 2017年2月1日球春。中国新聞のとある一面が広島を震わせた。

ADVERTISEMENT

まわりに流されるな。
つまずきを恐れるな。
手にできなかった日本一を目指し、
類のない個・集団となれ。
ゾクゾクする戦いを、
赤く燃えるスタジアムで
必ずや披露するために。
まっすぐに白球と向き合う日々が、
強さを身につける日々が、いよいよ始まる。









マッテルゾアカマツ

カープの外野手が胃がんを発表

 2016年12月28日、25年ぶりのリーグ優勝の喜びに包まれ幸福な年末を迎える広島に、衝撃のニュースが届いた。広島の赤松真人外野手が胃がんの診断を受けたことを発表。「早く治して前例になるようにしたい」「言うか、言わないか迷った。キャンプが厳しい中で何も報告せずに帰って来るよりは、先に言った方がいいと思いました」

 わたしだったら、癌を宣告されたらまず自分のことしか考えたくない。家族のことでも精一杯。こんな状況下でも、自分の身よりもチームに心配をかけないことを考えている赤松選手の言葉がそこにはあった。シーズン中でもそう、試合中でもそうだ。自分の成績ではない、チーム・チームメイトのことをまず一番に考えている。

〈赤松がチームにとって欠かせない存在となっていたのが、ベンチ内での貢献であった。スタメンではないため、試合に出ている時間は少ないが、赤松は常に相手投手の癖を探し続けていた。もちろんそれは、自分が代走に出たときの準備という意味合いがあったのだが、それだけに終わらず、そういった癖や分析した結果を試合に出ている選手たちに伝えていたのである。

 この赤松に絶大なる信頼を寄せた石井コーチが、「今年は本当に赤松に助けられた部分が大きい」と語るように、コーチャーズボックスに立つ石井コーチと、ベンチにいる赤松が常に情報を交換し合い、赤松はそれを試合に出ている選手たちに伝える役割を果たしていたのである。

 赤松はまた、伝えるだけでなく、試合に出ている選手たちにも「なぜいま走ったのか」「走らなかったのか」「どうして成功したと思うか」「失敗したと思うか」ということも聞いて回った〉

 前原淳さんの著書 『CARP STORY 広島東洋カープ16年目の第一歩』 にそう記されている。

 幸いにも胃がんは初期の段階で、すでに手術は成功し退院している。3月18日、監督・コーチ・選手全員がカープの永久欠番「15」を身に着けたオープン戦では、同じ「15」を身に着け、チームメイトとファンにいつもの笑顔を見せた。スタンドからは「おかえりなさい」「待ってるよー!」という声が飛び交っていたという。

「復帰をして、野球ができる状態になるのかはわからない。でも早く治して、前例になるようにしたい。前向きにしか考えていない」

 癌を克服し戻ってきたプロ野球選手の例は過去にない。

胃がんからの復帰を目指す赤松真人 ©文藝春秋

史上初オトコ

 2016年6月14日対西武ライオンズ戦、同点の9回2死一、二塁からのコリジョンサヨナラ安打。NPB公式戦史上初のサヨナラコリジョン勝利となった。

 2010年8月4日対横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)戦、村田修一(現読売ジャイアンツ)の左中間への当たりを、フェンスによじ登りホームランを阻止。スタンドのため息を一瞬で歓声に変えた。「日本の野球史上、もっとも衝撃的なキャッチだ」(米CBS)

 そうだ、他に前例のないことを何度もやってのけているのが広島東洋カープ・赤松真人という男なんだ。

 赤ヘル戦士達を率いて笑顔で猛ダッシュしたあの指は明るい未来を指しているに違いない、拳の中には無限の可能性が秘められているに違いない。前向きな本人を差し置いて、ファンが不安になっている場合ではない!!

 広島の赤忍者よ、世界のレッドスパイダーマンよ、まだまだ信じられないプレーを見せてくれ、これからも世界中をありえないと言わしめてくれ。バットで足で頭で心で、カープを勝利に導いてくれ。

開幕

 さあ開幕じゃ!! 偶然か必然か、彼をプロ野球の道へと導いてくれた阪神タイガースとの闘いで今シーズンはスタート。そんなん負けるわけにはいかんじゃろ。赤松選手はきっと、いや必ずテレビの前でチームのために共に戦ってくれとるんじゃ。共に戦おう。画面の前の彼にも届くように、赤く燃えるスタジアムのスタンドから、彼が誇りに思える声援を精一杯おくりたいと思う。

 広島の皆が、いや、日本中の野球ファンが、

 待ってるぞ赤松。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。