本稿の掲載予定は3月31日(金)、つまりプロ野球の開幕日と同じなのだが、これを執筆している現在は3月26日(日)である。したがって、虎党の私は5日後から始まる阪神タイガースの新シーズンに想いを馳せながらパソコンに向かっているわけだ。
金本知憲監督が率いて2年目となる今季の阪神、高山俊や北條史也、原口文仁などの若虎がどこまで成長するのか。新戦力の糸井嘉男は期待通りの活躍を見せてくれるのか。そして、WBCで消化不良に終わった藤浪晋太郎。注目したいことは山ほどある。生え抜きのベテラン・鳥谷敬もしかりだ。先述の北條の成長により、これまで長年守り続けてきたショートを追われた鳥谷は、オープン戦でセカンドやサードを守るようになったものの、不慣れなためか失策を重ね、打撃も決して好調ではなかった。
その一方で他の内野手、たとえばセカンドの上本博紀は打撃好調で、同じくセカンドの他にサードも守れるルーキー・糸原健斗の評価も高く、本来は外野手登録だがファーストやサードも兼務する若き大砲候補・中谷将大もオープン戦でチーム最多の14打点を記録した。さらに、内外野どこを守っても一級品の守備力を誇る名手・大和もいる。
そう考えると、オープン戦で攻守ともに不安要素を露呈した鳥谷は、ショートを北條に奪われただけでなく、もはやレギュラーすら危うい状況だ。果たして、本日夕刻に発表される阪神の開幕スタメンに鳥谷の名前はあるのだろうか(報道ではサードスタメンが濃厚だとか)。もしなかったとしたら、鳥谷はプロ14年目にして初の開幕スタメン落ちである。
金本監督の頭の中に「鳥谷の二軍」という選択肢はあるのか?
また、たとえ鳥谷がサードとして開幕スタメンに名を連ねたとしても、今季は早々から結果を残さないと、外野の雑音は増すばかりだろう。先述の中谷や糸原など起用を試したい若手がいる以上、活躍できないなら内野の控えに回らざるをえない。そこで、私が気になるのは金本監督の判断である。
もしも鳥谷が開幕から不振続きになり、いよいよスタメンから外れるとなった場合、金本監督はその後の彼をどう扱うのだろうか。阪神には古くからベテラン選手が代打屋として生き残っていくケースが多くあったが、鳥谷もそういう道を辿るのか。あるいは、その代打で結果を出し続けることで、いつかのレギュラー返り咲きを目指すのか。
個人的な気持ちとしては、鳥谷にはぜひとも復活してもらいたい。復活してもらいたいのだが、オープン戦を見る限りサードやセカンドへのコンバートはそう簡単なものではないのだろう。春季キャンプをショート一本で通したツケが回ってきたようにも見える。ならば、金本監督の頭の中に「鳥谷の二軍」という選択肢はあるのだろうか?
一般的に鳥谷のような実績豊富なベテラン選手の場合、故障以外での二軍降格にはマイナスイメージがつきまといがちだが、実際は決してそういうものだけではなく、たとえば完全復活を目指すためにあえて二軍で泥にまみれることを選ぶといった、前向きなケースもある。つまり、二軍降格ではなく、発展的な二軍調整だ。
ご存じのように、鳥谷は連続フルイニング出場の記録こそ途切れたものの、連続試合出場記録については依然として継続中だ。そのため、たとえばスタメン落ち後も一軍ベンチに居座った場合、どこかで途中出場しないと記録がどうのこうの、といった余計な雑音が聞こえてくることもあるだろう。私としては、そんな記録よりも鳥谷復活への手立てのほうが重要だと思う。そして、その手立てのひとつに二軍調整もあるのではないか。
鳥谷敬×掛布雅之! エリートと雑草スターの化学反応
なにしろ、鳥谷という選手は2004年のルーキーイヤーに7番ショートで開幕スタメンを果たして以降、二軍降格の経験が一度もないまま、プロ14年目に至っているのだ。この事実だけでも驚異的なことだろう。生粋のエリート選手にして無事是名馬である。
だからこそ、私は二軍で泥にまみれる鳥谷をあえて見てみたいと思ってしまう。鳥谷にとって二軍は未知の世界だから、そこに初めて足を踏み入れることで、一軍暮らしでは知りえない新たなヒントに出会えるかもしれない。コンバートによる慣れないサードの守備も、二軍戦や練習試合などでたっぷり経験を積むことができるだろう。
しかも、阪神の二軍監督はご存知ミスタータイガースこと掛布雅之である。現役時代の彼は偉大な四番打者であったのと同時に、守備面ではサードとしてダイヤモンドグラブ(現ゴールデン・グラブ)賞を計6度も受賞している。そう考えると、鳥谷がサードで復活を目指すなら、掛布監督は最高の指導者かもしれない。ドラフト6位からの猛練習で球界を代表する4番サードに成り上がった雑草スターの掛布監督は、自分とは対照的なエリート選手である鳥谷にどんな手を施すのか。掛布雅之と鳥谷敬の化学反応。興味は尽きない。
もちろん、今季の鳥谷が開幕から大活躍すれば、わざわざ二軍で調整することもないわけだが、だからといって鳥谷の二軍調整についての興味がなくなるわけではない。これまで一度も二軍経験がなかった生粋のエリート選手が、プロ14年目で初めて二軍暮らしとなり、客の少ない球場で若手と一緒に汗を流す。かつて甲子園のサードで輝きを放った掛布二軍監督にしごかれながら、サードの守備を一から練習する35歳。そういう光景を想像するだけで、なんだか胸が熱くなってしまう。ドラマとしては見てみたい。
しかし、これが現実になるには今季の鳥谷が不振に陥らなければならない。だから、やっぱり見たくない。見てみたいけど、見たくない。我ながら矛盾した話だ。
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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。