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【巨人】亀井善行、13年目でたどりついた「由伸の後継者」という役割

文春野球コラム ペナントレース2017

衝撃だった“2009年の亀井”の活躍

 13年前の秋の出来事だ。

 生まれて初めての転職活動中に、ふと大学野球をやってる神宮球場に立ち寄った。今日の面接も手応えなし、どうなる俺の将来? なんてヌルいコーラ片手にグラウンドを眺めていたら、目の前の左バッターが目の覚めるような打球をライトへかっ飛ばした。右翼席へ飛び込む完璧なホームラン。沸き上がる三塁側応援席のチアガール。誰だいったい? 拍手を送りながらスコアボードを確認したら、中央大学の4番ライト・カメイ。変わった名前の選手だな。それが、亀井善行との出会いだった。

 恐らく、多くの巨人ファンにとっても亀井は特別な存在の選手ではないだろうか。ドラフト4位で指名されたのは04年秋。あの暗黒の堀内政権、真っ只中だ。第一次原政権があっけなく終わり、巨人がいびつな補強を繰り返していた迷走期。坂本勇人や長野久義はまだ入団前で、どん底のチーム状況から這い上がろうと必死にプレーしていた若手が、当時20代前半の亀井や矢野謙次である。たぶん多くのファンはその背中に何かを見た。大袈裟に書けば「希望」とか「未来」みたいなものだ。今はこんな状態だけどいつの日か彼らがチームの中心になればいいな、東京ドームの客席から何度もそう思った。

2009年にブレイクを果たした亀井善行 ©文藝春秋

 その希望が形になったのが日本一に輝いた09年シーズンだ。戻って来た原監督を中心に、クリーンナップにはラミレスと小笠原道大がいて、32本塁打をかっ飛ばしたキャッチャー阿部慎之助も健在。まだハタチのショート坂本は打率3割をクリアして、“育成の星”松本哲也が新人王に輝いた。そんな魅力溢れるチームのど真ん中にいたのが「5番ライト亀井」である。

 春のWBCで高い守備力と走塁センスで侍ジャパンに抜擢され世界一に貢献した男は、その勢いそのままにシーズンでも大ブレイク。オガラミのあとの5番を任せられ134試合出場、打率.290、25本塁打、71打点、12盗塁の好成績。守ってはイチローも絶賛した強肩を武器にゴールデン・グラブ賞獲得。まさに亀井にとって己の人生を変える飛躍の1年。ファンもあの天才・高橋由伸を継承できる左の外野手が出現したと盛り上がったものだ。

迷走の末にたどりついた代打業

 早いもので、あの栄光の「2009年の亀井」から8年が経つ。盟友矢野はすでに北海道へと去り、4番ラミレスはDeNA監督となり、自主トレをともにした由伸も自軍の監督である。スポーツ界の時の流れは早い。正直、あれから亀井の野球人生は苦難の連続だった。度重なる故障にも見舞われ、キャリアで100試合以上に出場したのは2シーズンのみ。規定打席到達や二桁本塁打を記録したのも09年が最初で最後だ。

 坂本や長野といった年下の後輩選手たちがレギュラー定着していくのを横目に、近年は便利屋的な立ち位置。監督に「もうひとりカメイが欲しい」と言わしめる、なんでもできる男。だが、皮肉なことになんでもできすぎてしまうから起用法が難しい。ときに内野に回され三塁や一塁を守り、チーム事情でいきなり代役4番を打つこともあった。亀井はこんなもんじゃないと言われ続けて、気が付けばプロ13年目だ。

 いったいこの選手をどうやって起用するのがベストなのか? ずっと答えが出なかったその問題に、今シーズンようやくひとつの結論が出つつある。「代打・亀井」である。ここまでの代打成績は7打数5安打の打率.714、7打点と驚異的な勝負強さを発揮。試合終盤にその名前がコールされると、スタンドも待ってましたと言わんばかりに爆発的に盛り上がる。

 誤解を恐れず書けば、この活躍でようやく「2009年の亀井」が終わった気がする。ファンも首脳陣も、恐らく本人もみんなあの頃の亀井じゃなく、今の亀井を見ている。過去の幻想にサヨウナラ、目の前の34歳のベテランになった背番号9の姿を受け入れた。思えば遠くに来たもんだ。スーパースターを目指すだけが人生じゃない。レギュラーで出るだけが野球じゃない。ベンチでも困ったときにチームを助けてくれたらそれでいい。そう、晩年の由伸のように。

代打の切り札として活躍が期待される亀井善行 ©文藝春秋

憧れの由伸から継承した仕事

 高橋由伸の24番に死にたいくらいに憧れて、新人時代に背番号25をつけた若者は、今34歳になり、その「代打の切り札」の座を継承した。代打亀井のヒットにベンチで喜ぶ由伸監督の姿。確かに不動のレギュラーの座には届かなかった。あの頃、夢見た未来の形とは少し違うかもしれない。けど彼らはそれぞれの場所で逃げずに自分の仕事をまっとうしている。で、ファンもその姿を見て流れた時間を共有するわけだ。亀井も俺も年を取った。でもまだ終わらねぇぞ、なんつって。

 09年にはチームの末っ子的な立場だった坂本がいまやキャプテンを務める新しい巨人軍。監督は交代し、メンバーも入れ替わり、あらゆるものが変わった。

 けど、東京ドームへ行けば今も変わらず亀井がいる。

 See you baseball freak……

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