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【巨人】32歳・長野久義は「過去の自分」に勝てるのか

文春野球コラム ペナントレース2017

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極度の打撃不振に喘ぐ、32歳の長野

「いつの日か、長野が4番を打つようなチームになればいいな」

 8年前、初めてファン招待が実施されたドラフト会議観覧の帰り道で、そんな風に思ったのを今でもよく覚えている。2009年巨人ドラフト1位外野手・長野久義。あの頃、多くの巨人ファンはこの男に夢を見た。なにせ1年目で新人王、2年目で首位打者と完璧なプロ生活のスタートだ。原巨人が5冠を達成した12年には、当時23歳の坂本勇人と27歳の長野が両者173安打で最多安打のタイトルを分け合うハッピーエンド。背番号6と7の凄い奴。あの頃のサカチョーは、確かにふたりで巨人の未来をワリカンしていた。

 4つ年上の長野が兄貴で、末っ子キャラの坂本がやんちゃな弟みたいな雰囲気。それが気が付けば弟はとっくに兄ちゃんを追い越してしまった悲劇。昨季の坂本は打率.344でセ・リーグ遊撃手初の首位打者を獲得すると、日本最高のショートストップとしてWBCでは4割を超える打率を残し日本代表のベスト4進出に大きく貢献した。いまやスペシャルワンは押しも押されもせぬ巨人の若きキャプテンである。

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 対照的に最近の背番号7は話題になることすらほとんどない。もはや誰も触れないけど4年前のWBCでは長野も侍ジャパンの一員だった。なんか阿部慎之助や村田修一のベテランとともに代表からは一線を退いたみたいな雰囲気になってるけど、長野さん、まだ32歳だからね。いつの時代もプロ野球選手は球場で野次られている内はまだいい。それがファンから無視されたり同情され始めるとマジで危険信号だ。

開幕から打撃不振に喘いでいる長野久義 ©文藝春秋

 温厚な性格で選手会長を務め、助っ人陣やスタッフにも積極的に話しかけるナイスガイ。同時にグラウンドではいつもマイペースで飄々とプレーする掴みどころのない選手。由伸監督も、なんとかこの男のハートに火をつけようと昨季は約2カ月間に渡り「4番長野」で起用し続けるも、終わってみれば打率.283、11本塁打の中軸としては微妙な成績。

 4番に置けば覚悟を決めてブレイクスルーできるかもしれない。一流の壁を越えて超一流の選手になってくれるんじゃないか。そんな首脳陣やファンの期待は残念ながら不完全燃焼のまま終わってしまった。そして「6番ライト」で迎えたプロ8年目の17年シーズン、長野は開幕5連勝と好調なスタートを切ったチームにおいて30打数4安打の打率.133、本塁打、打点ともに0、さらに出塁率や長打率も1割台に低迷と極度の打撃不振に喘いでいる。

“ライバル不在”のプロ生活

 思えば、長野という選手は即戦力を超えた“超即戦力ルーキー”としてプロ入りした。なにせ入団から5年間の通算安打数767は、日本人選手としては長嶋茂雄や青木宣親を抑えてNPB歴代最多記録である。そんな異常な完成度の高さを誇っていた規格外の25歳の新人は、もちろん1年目からレギュラー起用され、チーム内に外野のポジションを争うようなライバルは不在。気が付けば、そのまま8年目だ。

 5年目以降はタイトルにも無縁。14年オフには右膝と右肘の手術を行い、走力や守備力が一気に衰えてしまった感は否めない。それでも、長野の代わりはいないと起用され続けてしまうリアル。今季の巨人を見ても、阿部や坂本はチームを背負い、立岡宗一郎や中井大介はレギュラー定着を目指し、亀井善行は代打稼業に活路を見出そうとしている。なら、長野は? いったい、何を目指し、誰と闘えばいいのだろう?

 正直、そこにテーマが見えて来ないのだ。この“テーマ”とはファンが共有し、共感できる“ストーリー”とも言い換えられる。いわばプロ野球選手としての物語である。やはり昨年の「4番挑戦」というこれ以上ないテーマをスルーしてしまったのは痛かった。年俸2億円以上貰ってる看板選手。「長野さん、助っ人にも笑顔で接してイイ人ね」って春の新歓コンパじゃないんだから。もちろんプロ野球選手として32歳という年齢は若くはない。その昔、江川卓がユニフォームを脱いだのが32歳で、掛布雅之が引退したのが33歳。かと思えば山本浩二が初めて40本塁打以上を記録したのは31歳のシーズンだ。このまま終わるのか。それとも変わるのか…。今、長野久義は野球人生の岐路に立っていると言っても過言ではないだろう。

ライバル不在で8年目を迎えた長野久義 ©文藝春秋

求められるのは「過去の自分」超え

 あれだけの鮮烈デビューを飾った男が、選手会長として坂本を少し離れたところからサポートなんて寂しすぎる。キャプテンに首位打者を獲った昨年以上の活躍をしろと言うのは酷だし、30代後半の阿部や村田に全盛期の数字を求めるのも無理がある。残念ながら、FA移籍の陽岱鋼は故障中で、期待の若手スラッガー岡本和真も守備の不安を考えるとファンが思う以上に時間がかかるだろう。だからこそ、巨人にはこの男の復活が必要だ。

 ライバルはいない。テーマもない。だったら残された道は「過去の自分」と闘うことしかないと思う。超えるべき目標は、最高にキラキラしていたプロ入り当時の背番号7の姿。

 もう32歳? まだ32歳だ。
 長野久義よ、過去のチョーノを超えていけ。

 See you baseball freak……

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。

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