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“台風15・19号”災害派遣で活躍 自衛隊ヘリパイロットが忘れられない「あの光景」

陸上自衛隊航空操縦士 インタビュー#1

2020/01/19

genre : ニュース, 社会

note

「手元の地図と実際の地形が全く違う」

「東日本大震災は、本当に被害が甚大でした。飛んでいても手元の地図と実際の地形が全く違うんです。ちょうど東北自動車道を境に海側は津波がやってきてまったくの別世界になっていました。地図を見ていても、本当に目的の場所にいるのかどうかもわからなくて……。

 それに、救援のヘリもあっちこっちに飛んでいるんです。自衛隊の他に海上保安庁や警察、米軍のヘリもいる。さらに取材で飛んでいるメディアのヘリもいますから。言葉は悪いかもしれませんが、当初は統制も取れていないような状態で、無線の周波数も違うから他のヘリがどこに行こうとしているのかもわからない。いつも以上に周囲に気をつけて飛びました。今ではその教訓が生かされて、他の組織とも共通の周波数を使うようなルールができました」

UH-1Jのコックピットに乗り込む吉田さん

「最近では林野火災が多いんですよ」

 過酷な場面も少なくない災害派遣。飛行隊のヘリは24時間即応待機。“何かあれば”すぐに飛び立って現場に向かう。と言っても、そうそう“何か”があるわけでもない。吉田さんはこれまでどんな経験をされてきたのだろうか。

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「確かに何もない日のほうが多いんですが、最近では林野火災が多いんですよ。今年の春から立川の第1飛行隊で勤務しているのですが、春先は特に多いです。枯れた枝葉が日に照らされてものすごい熱量になり、それで燃えるそうです。そこで要請がかかると飛んでいって、消火剤を撒く。ただ、現場では消防の防災ヘリも飛んでくるので、錯綜することがあるんです。そこで私たちが全体の指揮を執る、交通統制のような業務をしています。小規模の火災であれば要請はないので、我々が出動するということは規模が大きい。報道されないものでも、思った以上に林野火災があるんです」

©陸上自衛隊

「あとは、以前に三重の第10飛行隊にいた時には緊急患者の搬送をしたことも。人里離れた山奥で、近くに大学病院のような大きな医療機関がないところで重篤な患者さんが発生しました。昼間でしたらドクターヘリが飛ぶんですが、夜間は飛べないので我々に要請がかかるんです。自衛隊のヘリは夜間も飛行できる装置がついているんです」

 木々に覆われた山間部の夜間飛行は、空と山の区別もつかず、危険度の高い任務だ。そうした状況でも、日中と変わらないように飛ぶことができるのは、陸上自衛隊のヘリ部隊ならではの“力”。さらには木の枝すれすれをいくような低空飛行なども、自衛隊特有の飛行技術だという。こうした飛行技術とそれを繰り返し訓練してきた豊富な経験が、災害派遣の現場で活かされているというわけだ。

写真=石川啓次/文藝春秋

(全2回の1回目/#2 自衛隊の本来任務は「国防か、災害派遣か」ヘリパイロットの想いへ続く)

“台風15・19号”災害派遣で活躍 自衛隊ヘリパイロットが忘れられない「あの光景」

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