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連載燃え殻さんに聞いてみた。

燃え殻さん、かつての家族を忘れられない私はどうしたらいいでしょうか?

燃え殻さんに聞いてみた。

2017/05/13
note

Q 元夫と一人娘、かつての「家族」を忘れられず、前に進めません

 離婚してもう何年も経過しました。一人娘の親権は夫に。理由はいろいろです。10代の頃から一緒に時を過ごした前の夫とたった一人の娘。「家族」だった思い出を忘れられません。新しい恋をしようとも思わなければ、仕事が今はわたしの生きがいだとも思えません。忘れたくとも忘れられない。でも忘れなければならない。歩けども歩けどもトンネルの中にいます。充分に大人なのにわたしはこの先どうしたらよいのか全くわかりません。(40代・女性)

A 決着のつかないことを抱えて生きはじめた時に、あなたは本当の意味で大人になれると思います

 決着がつかないことをひとつ、ふたつ抱えて生きるっていうのは悪い事じゃない気がします。今は辛いと思いますが、本当に辛い時に生に執着させる最後の砦になるかもしれません。

 ボクには永遠に割り切れない事案があります。理由を端的に言えば、その人がもうこの世にいないからです。彼女はいつも落ちこぼれてるボクに、「大丈夫だよ、君は面白いもん」と言ってくれる人でした。それでもボクは怖じ気づいて、何度も何度も現実からの逃避を繰り返していました。よく巷で囁かれる25歳までに芽が出なかった奴はおしまいだ、30歳までに転職が決められなかったらおしまいだ、なんて年を軽々超えた頃に、ボクにも小さなチャンスが訪れました。そこまで世の中の数にも入ってなかった人間が、コツコツあきらめずに続けてこれた理由のひとつは、きっとなんの根拠もなく彼女が言い続けてくれた、「大丈夫だよ、君は面白いもん」という言葉でした。やっと社会の数に入れたよ、最終列車に間に合ったみたいだと彼女に報告しようとした時には、彼女はもうこの世界の狭間にいました。

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 43歳を迎えて、今でも情けないことにボクは時々、生きることをあきらめそうになる時があります。そんな時に踏み止まることができるのは、もう二度と会えないとわかっているあの人を裏切りたくないという気持ちだったりします。

 ボクはかなりの嘘つきで、怠け者で、相当エロにもだらしない人間です。でも自分の中にある、決着のつかない事案を抱えて生きることによって、その重さで飛ばされずに一歩、また一歩と今日まで歩いてこれたんだと確信しています。

 無責任なことを言います。あなたのたった一人の娘さんとあなたがいつの日か再会した時に、「やっぱり私のお母さんだ」と彼女が思える人として生きていくことがあなたの責務です。生きがいなんて、夢なんて振り切って忘れるぐらい仕事に邁進すればいいと思います。その日常の中でふと文春オンラインのこのページを見返してください。あなたが書かれた「充分に大人なのにわたしはこの先どうしたらよいのか全くわかりません」という言葉がとても幼くかわいらしく思えるはずです。

 そんなこともあるさと決着のつかないことを抱えて生きはじめた時に、あなたは本当の意味で大人になれるんだと思います。

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