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佐久間 文子
2017/06/11

パパ、ママ、王子……3人の女子高生が擬似ファミリーを築く傑作小説

佐久間文子が『最愛の子ども』(松浦理英子 著)を読む

『最愛の子ども』(松浦理英子 著)

 幸福な「ファミリー」に擬せられた三人の女子高生をめぐるこの物語は、「わたしたち」という珍しい主語で語られる。

「わたしたち」というのは、主たる登場人物三人を目撃する級友の集合体で、特定のだれかは最後まで顔を出さない。作中の言葉を借りれば、「小さな世界に閉じ込められて粘つく培養液で絡め合わされたまだ何ものでもない生きものの集合体を語るために」、この主語が選ばれたという。すみずみにまで目を光らせ、「わたしたち」は物語をいきいきと語り続ける。

「わたしたち」の声は、時にギリシャ悲劇のコロスを、あるいは王朝文学の女房たちを連想させたりもするが、日夏(ひなつ)や真汐(ましお)の視点に立つ場合は、これから妄想する、捏造をする、とあらかじめ言いおいてから、するりと内部に入り込んで語り続ける。あやふやさや、話を面白く膨らませることもある、一種メタフィクショナルな語り手であるのが面白い。

 権威に衝突しがちで意固地なところのある真汐と、人気者で際立って何でもできるが、どこか醒めている日夏。中等部時代に深く結びついた二人に高等部から入学してきた極端に受動的な空穂(うつほ)が加わって、親密な三人の関係は「ファミリー」と呼ばれ、大切なロマンスとして共有され語られることになる。

 当然のことながら彼女たちには家族がいる。自分たちで選びとった「ファミリー」に比べると、日夏も、真汐も、空穂も、現実の家族に不全感を抱えている。そして三人の関係性も不動のものではない。なりたちから変容、途絶までを「わたしたち」は見守る。関係に力ずくでヒビを入れるのは現実の家族で、結果として日夏は王国を出る選択を迫られる。

 著者は、初期の代表作『ナチュラル・ウーマン』で、女性同士の性愛を描いた。形のまだ定まらない官能を描く『最愛の子ども』を読んで、『ナチュラル・ウーマン』の女性たちの少女時代を読んだような錯覚に一瞬、とらわれたが、二〇一一年までの数年と時代が設定された『最愛の子ども』の日夏や真汐は、彼女らの子どもの世代にあたるのだ。

 作中で「わたしたち」の一人である美織の母親が、「あの人」について言及する場面が印象に残る。詳しくは語られない「あの人」は、『ナチュラル・ウーマン』の花世や容子であるかもしれない。『最愛の子ども』は、『ナチュラル・ウーマン』の作者から「道なき道を歩め」と子ども世代に手渡される、慈しみを込めた青春小説である。

まつうらりえこ/1958年愛媛県生まれ。青山学院大学文学部卒業。78年「葬儀の日」で文學界新人賞、94年『親指Pの修業時代』で女流文学賞、2008年『犬身』で読売文学賞を受賞。小説に『ナチュラル・ウーマン』『奇貨』、エッセイに『ポケット・フェティッシュ』など。

さくまあやこ/1964年大阪府生まれ。86年に朝日新聞社に入社。11年に独立し、現在フリーの著述家。著書に『「文藝」戦後文学史』。

最愛の子ども

松浦 理英子(著)

文藝春秋
2017年4月26日 発売

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