Q 将来を考えると、胸がざわざわします。

 私は音大附属高校に通い、春からそのまま音大生になります。ずっと続くんじゃないかと思えた学生生活にもうすぐ終わりが見えていることに気付き、それにつれ将来のことが凄く不安になっています。私は大学を出たら一体どうするんだろう、ニートになるのかな、などなど考えたら胸がざわざわします。

 誰もが皆音楽家として生きていけるわけではないから、もしかしたら別の道を探さなくてはいけないのでは……などと考え、何か資格を取ろうかとも思っています。大事な大学生活になると思うので、きちんと目標をもって過ごしたいです。なにかアドバイスを頂けないでしょうか?(18歳・女・高校生)

A 表現活動に懸命に取り組んだ経験は、将来きっと役に立ちます。

 春から晴れて音大生になられるということで、おめでとうございます。入学する前からすでに卒業後の不安を感じておられるのは少しもったいない気がします。不安な気持ちが先立っておられるようですが、一つのチャンスを確実に手に入れられたのですから立派なことだと思うし、大学で学ぶということは能動的なことだと思うので、積極的に生活を楽しむことをされても良いのでは?とも思います。浮かれずに目標をもって学生生活に取り組もうとされているのだからよほど慎重で丁寧な方ですね。

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 私も美術の短大に4年間通っておりました。その後、非常勤として美大で働いたこともあります。子どもの頃から絵を描くのが好きだったのでその道に迷いがなかったのですが、将来どうやって生計を立ててゆくのだろうという不安は常につきまとっていました。先輩たちの多くや周りの人たちは卒業と同時に会社へ就職されたり、他の道へ進む人が多かったのですが、私にはそのような将来を上手に描くことができませんでした。音楽や美術、そのほかの表現を社会に認められ、報酬を得るためにはいくつかの狭き門をくぐらねばならないし、孤独に耐える必要があります。それでもなおその道を選びたい、追求したいという欲求があれば、そういう人こそが切り開ける道というのがあると思います。

 そして、もう一つの現実ですが、音楽や美術の大学で学んだ人の多くがそれ以外の仕事や、生活を送ることとなります。それはあなたがいうとおり、誰もが皆音楽家として生きていけるわけではないからにほかなりません。一流の音楽家を育てようとしている高度な技術を持った専門家がいる教育現場でも、それだけで生活ができるほど報酬を得られるプロになるには、様々な壁が立ちはだかっています。じゃあ、どうせ自分はそれほどの才能がないだろうから、今から将来の就職に向けて何かほかのことに目を向けたほうがいいのだろうか、というのは入学前に考えるのはよしたほうが良い気がします。

 私は美大で非常勤として働いた短い期間、作家を育てる現場であるにもかかわらず、みんなが作家にならなくても良いと考えていました。ただし、表現の世界で創ることを一生懸命に取り組む期間が、その後の人生においてどれほど重要な時間であるか、そのことも知っていました。つまりだれもがだれも作家にならなくても、自分が創ることに一生懸命取り組んだならば、その経験は必ず将来役に立つのです。それも思いもかけないところで自分を救ってくれると思います。

 表現活動に一度でも全力で取り組んだ経験があれば、表現された物を観て、聴いて、感じることについてある程度の筋力が備わります。自分が取り組んだ経験があればこそ、表現された物の奥にある深みや広がりに気付くことができ、自分の中身を拡げることができるのです。逆に言えば、表面的にはきらびやかでスタイリッシュな物でも、実際は、ごく浅はかで適当に作られたまがいものだったりするのを見抜くこともあるでしょう。

 そのような力は将来、業種の違う職場で働くことになっても、物事の見方や捉え方を広げることでいろんな場面であなた自身を救ってくれることになると思います。演奏する側にがむしゃらに取り組んだからこそ培われた聴く力が、他者の仕事に対して敬意を感じたり、出会う人たちの言葉の奥に隠された本心を聞き取ることができたりするのだと思います。ただ、このようなことは心身共に限界かもしれない、と思うほど取り組んだ後にある筋肉だと思うので、学生生活では思いっきり学ぶことに没頭されると良いかと思います。

 そういう私は、学校といえばよくサボって遊んだなー。いろんなやんちゃな友達となかなか一生懸命遊んだと思います。限界かもしれないというほど制作に取り組んだことも確かにあったが。それから、たとえなんらかの社会的な立場を得たとしても、人は生き続けて時間が流れ続ける限り、将来の不安というのはなんとなくずっと続くものです。不安とは適当につきあうのが良いと思います。

「ニート」ってあんまり良い言葉じゃないなと思うので、「ニートになるのかな」ということは考えないで「この先自分の分くらいはなんとか出来そうな気がする」と考えながら学校を楽しんでください。適当に日々を過ごそうとしないで、学生生活を大切に考えておられていることが既に素敵な未来の始まりを感じさせていると思いますよ。不安をごまかさず、向き合おうとするその姿勢をいつまでも大切に持ち続けて下さい。

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