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丹野 智文
2017/07/17

39歳でアルツハイマーを告知された私が病気をオープンにした理由

認知症当事者3人のスコットランドの旅 前編

認知症当事者3人でスコットランドへ

 今年の6月、再びスコットランドを訪れました。ただし、前回はかなりタイトなスケジュールだったのにくらべ、今回は3泊5日と短かったものの、同じ認知症の仲間である竹内裕さん(67)と、山田真由美さん(57)と丹野の3人でゆる~く旅をする、その名も「ゆるたんツアー」です。

 エディンバラに到着したのは6月2日。翌日、ADI(国際アルツハイマー病協会)の会議が開かれていて、私たち3人も参加しました。4月末に京都でADI国際会議が開かれましたが、これはそのスコットランド版(スコットランド・アルツハイマー病協会大会)です。それでも1000人ぐらい参加していたでしょうか。

1人で電車に乗って移動する当事者

 私は京都のADI国際会議(2017年4月)で「開会の言葉」を読み上げましたが、そこで会った人たちもたくさん来ていました。もちろんジェームズさんのほか、私が知っているスコットランドの当事者もたくさん参加していました。

スコットランド・アルツハイマー病協会大会にて/同行した石原哲郎氏より提供

 会議に参加して気づいたことがあります。京都のADI国際会議に登壇した日本の当事者のほとんどが家族を同伴していましたが、今回の会議にスコットランドの当事者は1人で来ている方が何人もいました。ジェームズさんにうかがうと、1人で行けるところには一人で行くそうです。

 ジェームズさんも症状が進み、家事を手伝えなかったり服が着られなかったりしますが、それでも基本的に1人で電車に乗って移動するのだそうです。

 もちろんスコットランドでも家族を伴っている当事者はいましたが、日本と大きく違っていたのは、日本では当事者と家族がべったり一緒なのに対して、スコットランドでは当事者は当事者、家族は家族と、別行動をしていること。日本ではどうして夫婦が別行動をとらないのか不思議です。帰国してからもずっとそのことばかりを考えていました。その違いが、結果的に日本の認知症当事者の「自立」を妨げているんじゃないかと思うからです。

 話がそれますが、家族の会に来られるご夫婦も常に一緒の方が少なくありません。道に迷うのが心配だから一緒にいるという方もいます。財布を渡してもらっていない当事者もいます。理由を聞くと「なくすから」と言われていました。それならポケットと財布を紐でつなぐとか、工夫すればいいのに……。財布を持たないと1人で買い物に行けません。大金を持つわけではないのだから、落としたっていいのにと思うのですが。

認知症の人は働けない?

 私は会社で障害者の担当をしていますが、ハローワークの人に、「認知症の人で働きたい人もいるのに、働けた人がいないのですが?」と尋ねると、「認知症の人は働けないですよ」と私に言うのです。

「でも、ここでは働いていますよ」

「えっ、そうなんですか?」

「私がそうです」

 びっくりしていましたが、認知症の人は何も出来ないという固定観念が、多くの人の潜在意識の中にあるのでしょうね。

会社にできることと出来ないことを伝え、働き続けている丹野さん

 私は1人で出かけることもあるし、もちろん失敗することもよくあります。でも妻はそれでも「いいよ」と言ってくれます。この前も、パンを焼いていたのを忘れて黒焦げにしました。他の家族だったら「私がやるから」ってパンを取り上げるでしょうね。でもうちの妻はそうじゃないんです。「また焼けばいいじゃないの」と言います。私には、この距離感がとても心地よいのです。

 もともと日本では依存する夫婦が多いのかもしれませんが、スコットランドにくらべ、あまりにもべったりしすぎるのではないか。この違いはどこにあるのでしょうか。

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