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丹野 智文
2017/07/17

病気をオープンにすることを「誇りに思う」

 実はスコットランドでも、以前は日本と同じで病気を隠していたようです。

 ジェームズさんが声をあげて発信したことでオープンにする人が出てきたのです。今では、オープンにして自立をするようになると家族は「誇りに思う」と言います。日本の家族は「誇りに思う」という言葉は使わないように思います。スコットランドの当事者は症状が進んでも自分のことは自分でしていきたいと思っているので、周りも「心配するが、手助けは最低限で、見守るというのが私たちの役割なんだ」と言います。ジェームズさんの奥さんも、最低限のサポートしかしないと決めているようで、素晴らしいと思いました。実際、スコットランドの人たちはみんなさらっとしていて、必要な時に手助けしている感じです。

 認知症になる前は、たいていの人は何ごとも1人でやっていたはずです。自分のことは自分でしていたでしょう。自立というのは、自分のことは自分でやる、つまり他人に守ってもらうのではなく、自分でしたいと思う生活を自己決定することです。認知症ですからもちろんリスクはあります。でも、サポートしてもらいながら、自分で決定し、自分で行動すれば自信にもつながりますし、楽しいはずです。

自立するために自らGPSをつける

 スコットランドの人たちは、自立するためにさまざまな工夫をしていました。そのためのサポートツールもたくさんあります。

 たとえばGPSがそうです。話し合いの場に来る当事者の中にGPSをつけている人がいました。これは自分の意志でつけたものですから、もちろん外しません。ところが、日本では当事者の意思に関係なく、家族が不安だからつけます。だれだって知らないものを身につけられたら嫌です。だから外すのだと思います。

GPSを胸ポケットにつける当事者(中央)

 GPSだけではありません。飲む時間を知らせてくれる薬のケースとか、ユニークな腕時計(スマートウォッチ)もありました。ボタンを押すと、緊急時に救急車を呼んだり、家族に無事を連絡したりすることができます。また、着けていると、日常の習慣を把握し、それと異なる行動があった場合にメールや電話で知らせてくれるそうです。

緊急通報システムがついたスマートウォッチ

 電話もユニークでした。押すボタンの横に家族や親しい人の名前を入れておいて、ボタンを押せばすぐつながるようになっています。これなど日本でも簡単に作れるのではないでしょうか。

番号を押さず、かけたい人にかけられる電話 

 これらのツールはADIのブースに置いてあったのですが、街中にあるコミュニティカフェ(認知症カフェ)に行くと売っています。

便座を赤くして見やすく

 ちなみに、スコットランドのコミュニティカフェでは、たとえばトイレのドアの、それも取っ手の近くに大きなトイレの絵が描いてあって、すぐトイレだということが分かるようになっていました。

 また、認知症の人には空間認知に障害がある方もいるので、便座を白じゃなくて、真っ赤にして見やすくしていました。ぜんぶ白だと、どこが便座か見分けられないのです。階段もそうです。ドアの周りも色分けしていました。色分けすることで認識しやすくしているのです。

便座を赤く、認知症でも識別しやすいトイレ

 イギリスには前述したグッズを研究開発している大学があります。そこへいくとモデルルームがあり、認知症にやさしいキッチンとかベッドが置かれていました。たとえば、クローゼットに隙間があって、ベッドに座るとその隙間から何が入っているか見えるようになっています。こんな部屋なら認知症の人も生活しやすいですね。

  こうしたツールは、なぜ日本で広がらないのでしょうか。たぶん、日本では家族に守られているから、その必要がないのでしょう。着たい服があれば言えばいいし、時計を持たなくても、隣にいる奥さんに聞けばいいのですから。でも、いつまでも他人に依存していると、当事者は工夫する努力をしなくなるのではないでしょうか。