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森田 和樹
2017/07/16

3時間におよんだ白熱の選考会

◆広島東洋カープ suga 「今井啓介にどのようなエールを送ればいいのだろう」

竹田編集長(以下、編)「それでは、文春野球フレッシュオールスターの選考を始めましょう」
黒田広報(以下、広)「最初に送ってきたのがsugaさんでしたね。6月6日に1本目が来て、合計6本」
村瀬コミッショナー(以下、コ)「1本目は正式発表の2時間後ですからね。内容もしっかりしていて、すごいなぁと感心しました」
広「それぞれの原稿を読んでみて、この人はコラムらしい視点を持って書ける人なんだなと思いましたね」
コ「ツボを心得ているというか、安定感がありますよね」
編「ありますね。ホームランか三振かタイプじゃなくて、毎年2割8分残せるタイプ」
広「選手を取材しているわけではなく、ファンとしての目線。こういう見方ができたら野球が楽しくなるんじゃないかなと感じました」
コ「ただ、わかりやすいホームランがないだけに、どれを選ぶかっていうのが難しいですよね」
編「個人的には今井啓介かな。エルドレッド、田中広輔、誰を書いてもそつなくまとめてくるんだけど、特に熱量を感じたのがこれ。実況トピに『頼んだぞ、今井』と書き込むくだりにグッときました」
コ「他の作品もよかったですけど、一番書き手の感情が見えるのは今井でしたね。これでいきましょう」

◆千葉ロッテマリーンズ 栗栖章 「いつまでも走れ、カルロス・ムニス」

広「栗栖章さんの『ムニス』は、みんな評価が高いですね」
コ「これは……問答無用で面白かった。しかも24歳。本物のフレッシュですよ」
編「評価軸がこの人ならではだし」
コ「ムニスと聞いて、最初はネタ的な話かと思って読み始めたのですが、完全に裏切られました」
広「いろいろな書き方がある中で、今回のフレッシュオールスターでは自分と野球を重ね合わせる手法がよく見られましたよね。で、そこには2パターンあって、過去との重ね合わせ。もう一つが今の自分の感情と重ね合わせるパターン。ムニスは回想ものの中で出来が秀逸でしたよね」
編「やっぱり野球って物語にしやすいんでしょうね」
コ「下位打線でもワンポイントでも、誰もが打席やマウンドに立てば主役になれるチャンスがあるのが野球。そして、そのワンプレーが一生心に刻まれる人もいる。僕にもね、古木……(以下略)」
編「今回届いた原稿は、試合のことを書いたり、選手に思いを馳せたり、自分の人生を重ね合わせたりとか、いろんなバリエーションがあって良かったですよね。これがサッカーで募集していたら、戦術ものが多めになったかもしれない」
広「分析になったり、経歴をなぞってWikipediaみたいになるのは、個性が出ませんからね。だから、栗栖さんは良いと思います」

◆横浜DeNAベイスターズ 凡人太郎 「35歳会社員の私が、なぜ須田幸太を応援したくなるか」

コ「(承前)……つまり野球ファンっていうのは、才能があるけどなかなか殻を破れない若手だとか、日の目を見ないけど自分の仕事を黙々とこなすベテランなんかに自分を重ね合わせたくなるんですよね、きっと」
編「そう考えると、凡人太郎さんの『須田幸太』はまさにそれ」
広「凡人太郎さん、伝統的な野球コラムの枠の中にあると思うんですよ。ヒーローになりたかったけど、なれなかった」
編「沢木耕太郎さんの名著『敗れざる者たち』みたいな世界」
広「重ね合わせる書き方の中で、一番正統派であり、伝統的」
編「須田は早稲田出身のエリートで、本当は重ね合わせるなんておこがましいんですけどね」
コ「ドラフト1位ですからね」
編「でもそんなすごい選手でも、苦しんだり復活したりする姿を見て自分の人生と重ね合わせられる、そこが野球の奥深さなのかもしれない。『今更、大谷翔平にはなれない』の後、『でも、おこがましい話だけど須田幸太ならちょっと頑張ればなれそうな気がするんだ。』がいいですよね。実際なれないんだけど、気持ちはわかる(笑)」
広「若さを感じるよね、35歳で、親父というにはまだ抵抗があるみたいな。普通の人が普通の気持ちで書いたコラムとして良いですよね」
コ「凡人太郎さんいうぐらいですからね。でもこのコラムは非凡ですよ。」

◆横浜DeNAベイスターズ 黒田創 「1998年10月8日、池袋東口で」

編「他に評価が高かったのは、黒田創さんの『98年』」
コ「これは……刺さったなぁ。僕も同世代でエロ本の出身ですし。ポジ切りやったなぁ……」
広「読んでいて、絶対に村瀬さんに刺さるんだろうなって思いました(笑)」
編「いや、僕は逆にこういう方向性に対して村瀬さんは厳しいのかなって(笑)近いスタイルだし」
コ「いや、もうメロメロでした」
編「この書き方って『自分語り、さむい』とか言われそうなパターンですけど、文章力で最後まで飽きさせなかった」
広「なんかこう、良くできた短編小説みたいですよね。車の中で終わったり」
編「あと、この年のベイスターズを書かれちゃうと。ファンとしては」
コ「ファンの間でも「あの日何してた?」って語られるわけですよ。天変地異的なあの年の優勝、苦い下積みの時代、その中で起きたちっちゃい奇跡とか……いろんな思いがある中で、あえて書ききらない。“98年10月8日、僕は甲子園球場にも、横浜スタジアムにさえも行くことができなかった”。この最後の一文に込められた思い、ふるえるなぁ」

◆中日ドラゴンズ 式守’サチモス’龍之介 「大事なことはすべて星野仙一様に教わった」

広「他には、式守’サチモス’龍之介さんの『仙一様』も評価が高いですね」
編「宇野勝がヘディングした日本珍プレー史に残る伝説の名シーンをテレビで見ているところから始まって、『あ、あれをリアルタイムで見てたんだ』とすごく引きつけられました」
コ「あれを『おでこからミサイルが発射した』と表現したのは面白かったですね。今回の応募作の中で、こういうタッチはほとんどなかったですし」
編「弾いたではなく、ミサイルですからね。小学2年生ならでは」
コ「過去から様々な例えられ方をしているでしょうが、ミサイルは初めてですよね」
編「展開も面白い。小学生から大学生、社会人になるまで長いスパンで書いてる」
コ「大事なことを教わりつつ、矛盾をそっと握りつぶしていく感じとか。バカヤローという言葉にも味が増していきますよね」
広「構想力が高い」
編「他に似ているものがない。ナンバーワンじゃないけどオンリーワンでした。泣ける系が多いなか、今回唯一の笑える系でしたし」

◆オリックス・バファローズ SAZZY 「突然消えたマスコット「八カセ」への異常な愛情」

広「SAZZYさんも評価が高いですね」
コ「SAZZYさんは複数球団の作品を応募していただきました。ロッテの話もすごくよかったけど、個人的に『八カセ』が好きだったかな」
編「球場に熱心に通ってるからこそ、八カセに声かけられるっていう超レアな体験もできたわけで。しかもプロフィールにあるように、この方ロッテファン。敵チームのマスコットをこんなにあったかい目線で書けるのは、しんそこ野球好きというSAZZYさんの姿勢が伝わってきました」
広「マスコットって、選手のためでもプレーのためでもなく、応援しているファンのためのものですからね。選手やプレーと関係ないから新聞記者やライターは見落としがち。SAZZYさんのコラムは、自分はプロの記者じゃなくただのファンである、でもただのファンだからこそ気づくことがある、という視点のもので好感が持てますよね」
編「SAZZYさんにしか書けない話でした」

◆広島東洋カープ KITEN!副店長 「丸佳浩に花丸を! 『勝浦カットサロンまる』にて」

コ「それで言うと、KITEN!副店長の『カットサロンまる』もそうですよね」
編「今回、取材ものが少なかったんです。ほとんどがテレビで見たもの、観客席で見たものなど観戦者の視点だったので、現場に行って取材している原稿は、それだけで評価したかった」
広「もちろん節度っていうのもあるかもしれませんが、聖地巡礼はファンの一つの楽しみですしね。丸と同じ髪型にしてくださいっていうのも良かったですよね」
コ「ご実家でのくだりだけでなく、リズム&カープな勝浦タンタンメンの描写とかもよかったです」
編「ルポみたいな」
広「他の並びと比べて、置いておきたい感じはありますよね」


◆東京ヤクルトスワローズ HISATO 「戸田球場に響き渡るブルペン捕手・小山田貴雄の声」

広「野球ファンの行動の一つに、二軍球場に通うっていうのもありますよね。その中だとHISATOさんの『戸田球場』は良かったと思います」
コ「二軍に通っているファンの人は本当にすごいですよ。たまに来る僕らなんかよりもよっぽど選手のことを知ってるし、見てる。特にこの方は文章から普段どうやって選手を見ているのかが伝わってきますね」
編「本当のファンにしか書けないし、暖かい交流もあって。栗栖さんの原稿を読んだときにも感じたけど、自分にしか書けないものを書いている原稿は面白いなってあらためて思いました」
広「語彙の選択など、技術的につたないところはありますけど、なによりも愛を感じさせるコラム。技術的なことは編集者が教えられるけれども、好きだという気持ちは教えられませんからね。小山田というブルペン捕手が好きだ、彼のことを伝えたい。その思いがストレートに表現されていたと思います」
編「たしかに荒削りなところはあったけど、小山田選手の声の大きさとか、言葉をかけてくれたエピソードとか、これはHISATOさんにしか書けない話。よし、では、この8本でいきましょうか」