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連載この鉄道がすごい

東京駅から1時間10分 ディーゼルカー「いすみ酒BAR列車」で地酒と肴を楽しむ

上下分離方式の観光列車で“呑み鉄”の旅

2020/03/14

genre : ライフ, 経済, , 企業

note

青い海、緑の山が目に浮かぶようだ

 林さんのお話を聞きながら舌鼓。車窓は街中から林へ、そして田園風景へ変わる。

車窓の変化も酒の肴。

「東灘酒造は勝浦の海が見える蔵、背後の山から良い水が下りて、風通しの良い小さな蔵です。生産量が少なく、流通ルートにはなかなか乗りません。鳴海は絞りたてをそのまま瓶に詰めるため、微発泡のお酒です。こちらはお刺身と合わせてみてください」

千葉産の地酒は3種類。広口クラスで香りを楽しむ。

 広口のグラスを口元に近づける。さわやかな香り。これが海のそばからきた酒か。行ったことはないけれど、青い海、緑の山が目に浮かぶようだ。酒の物語は楽しい。

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「煮物、かわり揚げ、玉子焼きと合わせていただきたいお酒は福祝です。久留里の山の中、平成の名水百選にも選ばれたお水で仕込みました。やわらかな甘みがありますが、後味キリッとしています。酒米は千葉県匝瑳(そうさ)市で採れた山田錦と、食用の千葉産米、“ふさこがね”をブレンドしています。しっかりした山田錦とふくよかな“ふさこがね”の組み合わせが煮物、揚げ物と合わせやすいかと思います」

 なるほど、含むとちょっと甘い香り。しかし食後の雑味を流してスッキリさせる。でも魚の旨みはほんのり舌に残った。ふうむ。肴に合う酒とはこういうことか。

なるほど、洋風の肉料理に合うお酒か

「すこし黄色みのあるお酒が木戸泉です。大原駅から徒歩5分ほどの蔵です。酒米は“ふさのまい”という、いすみ市で化学肥料などを使わない自然農法で作られたお米です。高温山廃仕込みという珍しい造り方で、生の乳酸菌を使って、高温で雑菌だけを殺して酒母を仕込みます。味わいのある酸が出て、強いお酒になっています」

窓辺に並べると色の違いがわかる。

 日本酒を船便で(欧米へ)輸出すると、長期にわたる上に熱帯を通るため、到着地で酸っぱくなってしまう。そこで木戸泉酒造は日本酒を世界に広めようと、長期熟成しつつ劣化しないお酒造りを極めたという。

「木戸泉は強めで少し酸味もあるので肉料理に合います。ローストビーフと合わせてみてください。中華、フレンチ、イタリアンの店も木戸泉を置く店が増えています。古酒になると上品な紹興酒のような味わいになるんですよ」

酒升は参加者へのプレゼント。

 なるほど、洋風の肉料理に合うお酒か。ローストビーフも美味いけど、もっと強い肉の味で試してみたい。ビーフジャーキーとか、いや、和風にモツ煮込みもいいかも……。

 お酒は3杯で2合ほど。足りなければ別料金で追加もできる。下戸な私は呑みきる自信がないけれど、3種類を楽しめるところはありがたい。でも残したらもったいないなあ。持ち帰れないなら、頑張って呑んでしまおう。