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「スカーレット」脚本家・水橋文美江が「死ぬことよりも、どう生きたかを描こう」と決意するまで

脚本家・水橋文美江さんインタビュー #3

2020/03/28
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百合子の「私の師匠は照子さんや」という思い

――「スカーレット」では、女性がやりたい仕事の困難さを見つめる一方で、やりたいことを実現できなかったように見える女性たちも、生き生きと描かれています。たとえば、喜美子の妹・百合子(福田麻由子)は家庭科の先生になる夢を諦めますが、専業主婦になったことを悲観していませんよね。

水橋 喜美子の生き方だけが素晴らしいとは、私たちは全く思っていないんです。内田さん、中島さん、私の3人は周囲から「ヒロインに厳しい」ってよく言われたんですけど、「このヒロインだけが素晴らしいんだよ」という見せ方はどこか嫌だったんです。だから、どうしてもそういうところを他のキャラクターやシーンで描きたかった。カットされてしまったんですけど、最終回の最後の最後に、百合子と照子が一緒にいるシーンで、百合子が「私の師匠は照子さんや」と言うんですね。みんなそれぞれの道で、一生懸命生きているのだと訴えたかったんです。

 

キャラクター全員が私のなかに本当に生きて、存在している

――喜美子は穴窯に打ち込むことによって陶芸家として女性としてさらなる道を突き進みます。「スカーレット」という作品は水橋さんにとっても“穴窯”となりえたのでしょうか。

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水橋 連ドラを何回もやっていると、前にも書いたようなことをまた書きそうになって「あ、自分が自分の真似をしている」みたいな瞬間が出てくる。それって、自分のなかにある引き出しをもう一度開けようとしていることなんですね。それを避けるには新しい人物を書くことが一番なんです。朝ドラは長期間だから、「どこかで引き出しを開けて書かなければいけない時が来るかも、そうしたら煮詰まるかも」と構えてはいたんですけど、それが全くありませんでした。すべて新しい人物、これまで書いたことのないシーンを書けました。

 キャラクター全員が私のなかに生きていて、セリフをしゃべっているという感覚。本当に生きている、存在しているという感覚です。大阪編の荒木荘のパートを書いている時、目を覚ますと荒木荘の人たちが部屋のこのあたりにいるんじゃないかって思ったりしましたから(笑)。もう「私のなかに入ってきたー」という感じ。そこまでのめり込んで、長い期間をやり遂げられたという意味では“穴窯”だったと言えるかもしれないです。この経験は脚本家を20年以上やってきても、なかなかないことでしたね。

 

写真=末永裕樹/文藝春秋

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みずはし・ふみえ/石川県出身。中学生の頃から脚本を書き始め、フジテレビヤングシナリオ大賞への応募をきっかけに、1990年脚本家としてデビュー。NHK名古屋「創作ラジオドラマ脚本募集」佳作、橋田賞新人脚本賞を受賞。映画、ドラマの脚本を数多く手がける。作品に、テレビドラマ「夏子の酒」「妹よ」「みにくいアヒルの子」「ビギナー」(フジテレビ系)、「光とともに」「ホタルノヒカリ」「母になる」(日本テレビ系)、「つるかめ助産院」「みかづき」(NHK)など。夫は、フジテレビディレクターの中江功氏。 

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