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岩田健太郎医師が語る 「風邪で休むなんて“ズル”」大人のいじめ社会・日本を変える方法

岩田健太郎医師が語る 「風邪で休むなんて“ズル”」大人のいじめ社会・日本を変える方法

2020/04/19
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「自分が全面的に正しい」と主張する気はない

 ここでは言えない詳細もある。言ってもしようがない詳細もある。本題から外れるのでその話はしない。

 ここで考えたいのは一点。船から問答無用で追い出されてしまった、という事実。それだけである。

 ぼくの言動が現場の誰かを不愉快にさせたらしいことは理解している。それを申し訳なくも思っている。本稿を書いている今でも、どうやったらあの場にとどまりつつ、皆の不安や不満を増強させることなく、危機対策に貢献できたのかは、自問している。反省点もいくつか持っている。自分が全面的に一方的に正しい、と主張する気は毛頭ない。

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岩田医師の新刊「ぼくが見つけたいじめを克服する方法」(光文社新書)

 だが、仮にぼくが間違っていたとしても、「間違っていたから排除する」という理屈はおかしいと思う。今でもおかしいと思っている。そんなものは組織ではない。危機対応時の組織ですらない。

 みなが不快に思う、不安に思うと言うなら、ぼくに声をかけて「お前の振る舞いに問題がある」と言えばいいのだ。面と向かって。それならば、こちらも自分の問題点に気づき、反省し、改善するチャンスだってあっただろう。そもそも、それはどこまでがぼくの態度の悪さなのか、どこまでがその「某氏」の好みの問題なのかすら分からない。というか、自分自身は隠れて安全なところにいて、その正体も明かさずに他人を一方的に排除することが、果たして許されることなのかどうか。

 アドホックな(その場限りの)根拠で自分の嗜好に合わない人物や行動は排除する。価値観や振る舞いを共有できない輩は排除する、合う人物とだけ仕事をする。こういう同調圧力や異論の否定は、特に危機管理のときに危険である。間違いがあっても誰も否定できず、そのままみんな揃って「滅びの道」、ということはよくあることだからだ。

アフリカやアジア、南米の現場では「絶対になかったこと」

ダイヤモンド・プリンセス号は700人弱の感染者を出し、うち13名が死亡している(4月17日現在) ©AFLO

 これまで、アフリカやアジア、南米などいろいろな国の感染症診療に関与してきたが、国際社会においては問題の解決は、たいていは議論による合意で行なう。たとえ命令系統という上下関係があったとしても、なんのヒヤリングもなく誰かを排除することは絶対にない。

 例えば、2014年のエボラ出血熱流行のときは、ぼくはシエラレオネでWHO(世界保健機関)のコンサルタントとして働いていた。

 感染拡大防止がうまくいかず、最終的には英国軍がこの対策のリーダーシップをとることとなった。軍人は会議の進行なども無駄がなく、厳しいものであったが、専門家の進言には必ず耳を傾けた。彼らは、自分たち自身は感染対策の専門家ではなく、危機のマネジメントに専心するのが役割だと知っていたからだ。

「プランB」に方向転換できない日本

 災害や感染症の現場でいつも強く感じるのは、日本の「現場」はいつも皆、疲れていて、イライラしていて、ギリギリのところまで頑張ってしまっていることだ。特にトップが一番疲れていて、イライラしている。責任感が強いからなのだが、休まず、眠らず、現場から離れず、そして周りの「すべての」相談に対応せねばならず、とても忙しい。