文春オンライン

最悪拷問の恐怖…産経新聞記者によって中国“タブーメディア”に名前をさらされた話

2020/07/07
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「宇宙の真理」を知った者

 ちなみに筆者は今年2月、『中央公論』の短期連載記事の取材のため、都内で開かれた法輪功の修練に参加してみたことがある。翌日は朝から腰痛と肩こりがすっかり消え、一時的にものすごく体調がよくなったので、(教義や政治的なイデオロギーはさておき)法輪功がかつて中国本土で大ブームになった理由については身をもって納得した。

※修練の休憩中、新型コロナウイルスの流行は明の時代に予言されていたとする、『大紀元』の記事内容を解説してくれた法輪功学習者の女性。2020年2月、都内某所でおこなわれた法輪功の集会にて筆者撮影

 いっぽう、法輪功は教義の面においては、修練によって体内で霊性を持つ高エネルギー体「法輪」が回転しはじめ、宇宙の真理に近づき特別な存在になれるとする、一種の超人化思想を説いている。そのためか、「宇宙の真理」を知った者としての高いプライドを持つ信者も少なくない。

 ゆえに法輪功の一部の信者は、教団や『大紀元』に対する批判に非常に敏感だ。たとえ中国の体制に親和的な立場ではなくても、ネット上を含めた公の場で法輪功を批判する行為は、ある程度は腹をくくる必要がある──。

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 つまり、法輪功を褒めれば中国当局にマークされ、場合によっては拷問すらも受けかねないが、かといって法輪功を批判すれば信者から抗議を受ける可能性がある。法輪功に対して良くも悪くも関心がない人物が法輪功系メディアで取り上げられることが、いかにやっかいな問題を生むのかは、こうした点からも想像していただきたい。

2008年、台湾を訪問した法輪功の信者。中国と台湾の交流窓口機関トップの夕食会が行われている会場近くで、法輪功への弾圧に抗議する座り込みを行った ©共同通信社

「日本のメディアとの接触を一切断つしかない」

 ところで、名のある新聞記者が会社の許可を得た上で他社の媒体に寄稿したり著書を書いたりする事例はしばしば見られる。今回、産経新聞社の論説副委員長である佐々木類氏が『大紀元』に寄稿していた件も、文春オンライン編集部が産経新聞社広報部に問い合わせたところでは「社内規定に基づき社外メディアへの執筆申請が出され、許可しました」とのことだった。

 佐々木氏がわざわざ『大紀元』を寄稿先に選んだのは、同氏の『日本が消える日──ここまで進んだ中国の日本侵略』(ハート出版)などの複数の著書や論考から判断する限り、おそらく「反中共」の面で法輪功と問題意識が一致したためだろう。

佐々木類氏の著書。新聞記者との二足のわらじを履きながら、非常に多作だ

 もちろん、日本では信教と思想信条の自由が保障されている。佐々木氏が法輪功にシンパシーを抱き『大紀元』に寄稿する行為も、本人が責任をもっておこなうなら問題はない(産経新聞社の中国総局が吹っ飛ぶ可能性はあるが、それは同社が判断する問題である)。

 とはいえ、それでもH氏の件について悪質なのは、佐々木氏が本当の寄稿先である『大紀元』の名を伏せて産経新聞記者として連絡をおこなった点と、取材を拒否したのに「接触した」としてH氏の実名や経歴を記事中で詳細に記述したことだ。