近年、中国大陸と香港(さらには香港をサポートする台湾)の若者同士の感情的な対立はどんどん強まっている。それが特に爆発しやすいのがインターネット空間だ。

 とはいえ、大部分の海外製のウェブサービスへのアクセスがブロックされている中国大陸の若者と、接続規制のないネット環境を享受している香港や台湾の若者とでは、日常的に出入りするウェブサービスが異なる。Twitterでは親体制的な意見を投稿する中国人のアカウントも少なからず見られるが、彼らは「五毛」と称される当局のネット工作員も多く、しばしば無視されてしまっている。

 だが、リアルな中国人と、リアルな台湾・香港人の若者がオンライン上で接触せざるを得ない空間も存在する。それはゲーム関連のサービスだ。特に香港で大規模な反政府デモが発生した昨年夏以来、ゲームの空間内やファンコミュニティ内における中国大陸と香港・台湾の衝突はエスカレートするばかりだ。

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コロナを拡散させる“不謹慎ゲーム”とは?

 たとえば今年4月後半、中華圏で大いに話題を集めたのが、台湾のゲーム開発グループMythZsGameが開発した『コロナウイルス・アタック』である。アメリカのValve社が提供しているゲームプラットフォーム「Steam」上で販売されている、ダウンロード専用のソフトだ。

 Steam内での説明文によると「感染すると自分勝手なゾンビに変わるゾンビウイルス」の蔓延を食い止めるために、コロナウイルスを操ってゾンビたちを倒す……という設定のシューティングゲームである。

 プレイ動画を確認する限り、『コロナウイルス・アタック』のグラフィックは約四半世紀前のスーパーファミコンソフトといい勝負。ゲーム性もかなりシンプルで、実質的には同人ゲームに近い。

Steam上の『コロナウイルス・アタック』の販売ページより。いちおう、人類を絶滅させるゾンビウイルスを倒すための正義のウイルスという扱いだが……アウトである(笑)

 いっぽう、ゲーム中において、赤い背景に黄色いコロナウイルスが登場する画面は、インターネット上で流布されている五星紅旗(中国国旗)のコロナコラージュ画像とそっくりだ。

 また、ゲーム中の合言葉には「秘密の数字198964」「台湾は中国ではない」「光復香港時代革命」「新疆を釈放せよ」「FREE TIBET(チベットに自由を)」などが使用され、ソフトの価格も台湾元で「64元」となっていた。

 もちろん「光復香港時代革命」は香港デモのスローガンだ。また、中華圏で「8964」や「64」といった文字列は1989年6月4日に発生した六四天安門事件を意味しており、中国大陸ではタブーワードとなっている。

 往年、日本でもデジタル空間の利用者たちのお行儀が悪かった時代には、地下鉄サリン事件がモデルの『霞ヶ関』や香港返還がモデルの『香港97』など、時事問題をテーマにした数多くの不謹慎ゲームが作られた。今回の『コロナウイルス・アタック』もその一種とみていいだろう。

中国ゲーマー、ブチ切れる

 もっとも当然ながら、中国はこの手のお遊びを許せるほど心が広くない。『コロナウイルス・アタック』がリリースされた4月24日から数日も経たないうちに、中国国内のSNS『微博』上には「#中国を侮辱するゲームは人類の最底辺」というハッシュタグが登場した。