4月1日、安倍首相は日本中の全世帯に対する布マスク「2枚」の配布を発表し、内外に戸惑いの声が広がった。言うまでもなく、この一件の背景にあるのは、昨今の長引くマスク不足問題だ。

 日本のマスク不足は中国国内で新型コロナウイルスの流行が伝えられはじめた1月20日過ぎから急速に進行し、2月上旬からは地方でもほぼ買えなくなった。

 3月15日になって、ようやくマスクの転売が禁止されたものの、ごくまれにドラッグストアなどでマスクが販売される際には長蛇の列ができる。多くの人は、数少ないマスクを洗濯やアルコール消毒で使いまわしていることだろう。

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コロナ・パニックにともなう各種品物の入荷状況を伝えるドン・キホーテ北池袋店の店内看板。マスクの品切れは深刻だ

 だが、実は都内でもまだマスクが手に入るエリアが存在する。それは在日外国人たちのコミュニティだ。一般の日本人があまり近寄らないディープなコミュニティになるほど、その内部ではマスクが堂々と流通している。

ディープ中華ビルの「マスク在庫あり」

 まずは中国人の世界をご紹介しよう。在日中国人は大きく分けて、1960年代以前に日本に定着している老華僑と、1970年代の改革開放政策以降に日本に来た新華僑がいる。前者の老華僑は戦前期から横浜や神戸のチャイナタウンを作ってきた――。が、彼らはかなり日本社会に馴染んでおり、チャイナタウンにも日本人が近寄りづらい雰囲気はまったくない(むしろ観光名所になっている)。

 対して「ディープなコミュニティ」を形成しているのが新華僑たちだ。特に首都圏では、池袋の旧北口付近や埼玉県西川口などに新たなチャイナタウンが形成されているほか、新大久保・高田馬場・上野・小岩などにも半チャイナタウン化したエリアがある。街のなかにすこし深く潜れば、広がっているのは中国語オンリーの世界だ。

 マスク販売の噂があるのは、そうした地域にある雑居ビルだった。このビルは各フロアがほぼすべて中国系の飲食店やスーパーで占められており、なかにはドラッグストアもある。このストアで、毎日午後3時になるとマスクが売られるらしい。

堂々とマスク販売をアピールする、某雑居ビル内の中国系ドラッグストア。心強いが果たして……