想像してみてほしい。あなたにある日、大手新聞社のベテラン記者から取材依頼のメールが届いた。だが、業務に関係する話題を興味本位に取り上げられたくなかったあなたは断りのメールを返信する。
……ところが数日後、新宗教団体○教の機関紙のウェブサイトに、あなたの名前や経歴を詳しく記した記事が、あなたと「接触した」と称するその記者のコラムとして掲載された。○教は教義に政治主張が組み込まれたアクの強い団体であり、その日から上司や同僚・近隣住民があなたを見る目が妙に冷たくなった。
削除を求めたが、その後も記事はネットを漂い続けた。結果、あなたは○教と対立する危険な政治団体▲■党の党員から「○教の回し者」だとみなされ、外出するたびに謎の人物に尾行されたり、職場に中傷ビラを送りつけられたり、電話を露骨に盗聴されたりするようになった。
そこで辛抱たまらず「私は○×教とは無関係だ」と実名でSNSに書き込んだところ、今度は○×教の信者から「お前は俺たちを差別している」「▲■党の手先だ」と攻撃されるようになった。なぜ、記者の取材依頼に断りの返信をおこなっただけで、こんな大変な目に遭わなくてはならないのか──?
取材を拒否したのに「接触できた」?
まるでサイコホラー映画みたいな話だが、中国のある大学で教鞭を執る日本人研究者のH氏は最近、似た状況に置かれかけた。さいわい、現時点までH氏はひとまず無事だが、一歩間違えれば上記以上に危険な事態に陥っても不思議ではなかった。
今年5月下旬、H氏に取材依頼のメールを送ってきたのは産経新聞社の論説副委員長・佐々木類(ささき・るい)氏である。過去には首相官邸記者クラブキャップ、政治部次長、ワシントン支局長などの要職を歴任したベテラン記者だ。
H氏は本人のツイッター上でメールの本文を公開している。これによれば、佐々木氏は産経新聞社の肩書きを名乗ったうえで、日本の科学者の頭脳流出問題や、中国政府が進める海外研究者招聘プロジェクト「千人計画」について取材したいと依頼。対してH氏は自身の研究に関係がないからと、即座に断りの連絡を入れた。
ところが、なぜか佐々木氏は約1カ月後、「この計画(注.千人計画のこと)に参加した日本人研究者と最近、接触できたので紹介したい」と、H氏の実名をあげて経歴を詳細に紹介する記事を発表する。
しかも発表媒体はなぜか産経新聞ではなく、『大紀元時報』(Epoch Times)という社外の華人系メディアだった。