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最悪拷問の恐怖…産経新聞記者によって中国“タブーメディア”に名前をさらされた話

2020/07/07
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「強烈な反中共の組織」法輪功

『大紀元』は中国国内で禁じられている法輪功(法輪大法)の系列メディアである。おおもとである法輪功は、神秘性の強い教義をかかげる気功修練団体(事実上は新宗教団体に近い)だ。トップは中国吉林省出身の李洪志で、信者(学習者・修練者)たちの間ではカリスマ的な崇拝対象となっている。

 法輪功は1990年代には中国全土で億単位の信者を集め、共産党内や人民解放軍内にも強い影響力を持った。しかし1999年からは勢力の拡大を懸念した中国政府によって徹底的な迫害を受けるようになった。

※2019年6月、ベトナムのハノイで中国人観光客向けに宣伝活動をおこなっていた法輪功の信者。世界中で活動をおこなっており、日本でも池袋など中国人の多い街では姿を見かけることがある。

 いっぽう、李洪志の亡命先であるニューヨークに拠点を移した法輪功は復讐心に燃え、強烈な反中共イデオロギーを教義のなかに事実上組み込むようになる。

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 彼らは傘下の『大紀元』『新唐人テレビ』『希望の声ラジオ』などの各メディアを組織して、虚実入り交じったショッキングな情報を流し、中国共産党や江沢民(法輪功迫害当時の党総書記)を徹底的に攻撃、さらに中国共産党員の脱党勧告運動をおこなったり海外の中国民主化運動関係者と提携したりと、党体制に真正面から牙を剥くようになった。

法輪功系メディアの取材を受けると電気棒で拷問

 ゆえに法輪功に対する中国国内での弾圧も深刻になった。法輪功側は、中国国内で多数の信者が当局の「臓器狩り」に遭い、臓器売買の犠牲者になっていると主張している。その真偽は不明としても、少なくとも法輪功の信者やシンパが当局による不当な拘束を受け、取り調べ段階で暴力を加えられる例があるのは事実である。

 たとえば、筆者が過去に取材した姜野飛という亡命中の男性は法輪功の信者ではなかったが、四川大地震が発生した2008年5月に法輪功系メディアの電話インタビューに実名で応じたことで、当局から法輪功シンパの疑いをかけられた(拙著『八九六四』参照)。

※法輪功系メディアには飛ばし気味の記事も少なくない。写真は2005年8月、中国四川省と広東省深圳市でエボラ出血熱が発生した可能性があると伝える『大紀元』日本語版。現在の新型コロナウイルスについても、法輪功系メディアは当初、人工ウイルス説を強く主張していた。

 やがて、派出所に連行された彼は「中国の誤った情報を国外に流した」と非難され、数日間睡眠を与えられず天井から半裸で吊り下げられて、電気棒を何度も肌に押し付けられる拷問を受けている。

 当時の姜野飛はただの労働者で、警官から荒っぽい取り調べを受けやすい社会階層の人物だったのは確かだ。とはいえ当局の法輪功に対する憎悪は強い。中国国内の在住者が法輪功系のメディアと「接触」することは、最悪の場合はこうした仕打ちすら受けかねない危険な行為なのである。