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最悪拷問の恐怖…産経新聞記者によって中国“タブーメディア”に名前をさらされた話

2020/07/07
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“普通のメディアではなかった”寄稿媒体

 以下、佐々木類氏が『大紀元』に寄稿した記事から問題の部分を引用しよう。なお、文中で(※)とした部分は、本文ではすべて実名である。

“この研究者は、中国・上海にある国立の理科系総合大学のF大学(※)で教鞭をとり、10人の研究員を率いて自らも研究を続けているH教授(※)だ。日本や米国でタンパク質の構造などを研究していたが、2015年に千人計画に応募して中国に渡った。

 H教授(※)は、2005年、T大R学部S科(※)を卒業し、09年にT大(※)で修士、12年まで米O大(※)で博士研究員となり、T大で特任助教を務め、F大で教授を務めている。専門は構造生物学だ。現在、F大から教授職と5年間で1億円以上の研究費を提供され、10人の研究員や学生を率いてタンパク質などの研究を続けている。

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 筆者は5月下旬、H教授に取材依頼の電子メールを送った。メールには、取材に応じてもらった場合を前提に、中国に渡った動機やH教授のような日本の頭脳流出などについての簡単な質問を列挙した。すると、誠実な人柄なのだろう。その日のうちに返事が来た。だが、「専門の科学分野以外の取材には応じられない」という丁重に取材を断る内容だった。H教授は2018年に紫綬褒章を受章した東大のN教授(※)の研究室出身なので、N教授にも電子メールで取材をお願いしたのだが、残念ながら返事はまだない”
<佐々木類「世界中の頭脳に触手伸ばす中国の「静かなる侵略」 「千人計画」の甘い罠」『大紀元』WEB日本語版(2020年06月26日 06時00分付)>

※『大紀元』日本語版の公式ツイッターより。記事本文の引用とはいえ、一見するとH氏が『大紀元』に対して情報提供をおこなったように見えてしまう。

 取材を断られたにもかかわらず、記事中で実名を出して「接触した」と主張することや、産経新聞の肩書きでメールを送ったのに断りなく他の媒体で記事を書いていることも、コンプライアンス面では非常に大きな問題だ。

 しかし、これらが吹き飛ぶほど深刻な問題は、佐々木氏が寄稿した媒体が『大紀元』だったことである。なぜならH氏のように中国国内で暮らす日本人が、『大紀元』紙上で記者から「接触した」と名指しで書かれることは、身の安全が保証されなくなることとほぼイコールだからだ。