久々に実家に帰ってみると、親の運転がどうにも危うく感じる。それ以来、高齢ドライバーによる踏み間違い事故のニュースを見るたび、嫌な想像が頭をよぎる……。
免許返納をめぐる悩みは、介護や相続、墓地といった話題と並んで、いつかは家族間で結論づけなければならない問題だ。しかし本人たちにとっては、触れたら日常が壊れてしまうような感覚があり、「考えないようにしている」という家庭も多いと思われる。
加齢による衰えを指摘するのは実の親が相手でも難しいが、まして義理の息子や娘の立場であればなおさらだ。今回はそんな「義理の親の免許返納問題」に悩む人たちの声を聞いてみた。
「車がステータス」の義父、愛車にキズやヘコミが増えていき…
最初に紹介するのは、茨城県に住む50代女性の寄田さん(仮名)。結婚を機に夫の実家近くに家を建て、今でも交流の機会は多いというが、このところ81歳になる義父の運転に不安を覚えていると話す。
「義実家から車で10分くらいの場所に住んでいます。義実家の方が立地がよく、徒歩圏内にスーパーやドラッグストア、内科の病院なんかもありますし、車なしでも生活は十分にできる環境だと思います。
それでも、雨の日や荷物の多い日は買い物が大変だというので、義父はまったく車を手放す気はありません。どうも車がステータスと考えている節があり、ずっと5年おきくらいのペースで新車に買い替えていて。3年ほど前にも、新しくクラウンを買っていました。
もちろん運転がまともならいいんですけど、ここ1年くらいの間で、車に細かいキズやヘコミが増えているんですよね。プライドが高い人ですし、ぶつけたところはすぐに直すタイプだと思うのですが、気力が衰えているのか、そもそもぶつけたことに気づいていないのか……。
夫も義父の運転が危うくなっていると理解してはいるものの、『俺の意見なんか聞くはずない』と投げやりで、まだ何も話はできていない状態です」
高齢になるにつれ、運転に必要な認識や身体の能力が衰えていくことは避けられない。しかしその変化について、本人が客観的に把握することは難しい。このケースのように、車の必要性がそこまで高くない環境であっても、自身の運転に対して不安を覚えないかぎり、そのまま運転を続けるケースは多いと思われる。
実際のところ、近年の免許返納件数の推移を見ても、池袋暴走事故のあった2019年をピークに年々減少が続いている。
高齢者による凄惨な事故の記憶が薄れるとともに、高齢ドライバーが自身の運転を省みる機会も減っているかのようである。