接触事故を繰り返すも「車のない生活」は難しく……

「自宅の駐車場でぶつけた」など、小さな自損事故が返納を考えるきっかけになれば、まだ幸いかもしれない。けれども運転能力の低下を自覚したからといって、誰もが「すぐに車を手放せる環境」にいるとは限らない。

 千葉県に住む60代男性の中本さん(仮名)は、遠方の過疎地に住む86歳の義父について切迫した思いを語る。

「義実家が遠方のため、そもそも義父の車に同乗する機会が少なく、免許返納についてはあまり考えていませんでした。ですが最近、妻が義母や義兄と頻繁に電話していて、なんでも義父がここ数ヶ月で事故や交通違反を繰り返しているといいます。

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 最初に捕まったのは一時不停止で、本人も『運が悪かった』などと話していたようなのですが、それからスーパーの駐車場で止まっている車にぶつけたり、すれ違いで電柱にサイドミラーを思い切りぶつけたりと、立て続けに事故を起こしているんです。

 今は物損だけで済んでいるものの、実際に迷惑もかけてしまっていますし、もうこれ以上は……。もちろん、義母や妻は返納についても考えてはいるのですが、義実家は車なしではかなり生活が難しい場所にあります。最寄りの商店は数年前に閉業し、コンビニもなく、一番近いスーパーでも車で20分ほどかかるので、かなり厳しい状況です。

©hika_chanイメージマート

 私たちも義兄の家族も遠方で、車を出してあげることはできず……。妻と義兄の間では、どちらかが同居する可能性も視野に入れているようなのですが、私としてはかなりハードルが高く、どうにも話を進められていません」

 免許返納を考えるうえでは、まず返納後の生活について具体的に考えておく必要がある。その際活用したいのが、各都道府県の免許センターなどに設置される安全運転相談窓口だ。

 地域における返納後の支援制度についての紹介や、医療系の専門職員との面談などが行われ、状況により医療機関の紹介や、臨時の適性検査を実施してくれる。

 そうして現状を整理したうえで、「支援制度などを使った返納後の生活」が現実的かどうかを検討する、というのが具体的な一歩目になるかもしれない。