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なぜ『奥田民生になりたいボーイ』は映画になったのか?――渋谷直角

なぜ『奥田民生になりたいボーイ』は映画になったのか?――渋谷直角

『コラムの王子さま(42さい)』特別公開、最終回!

2017/09/08

genre : エンタメ, 読書

note

 ついに発売! 渋谷直角6年ぶりのコラム集『コラムの王子さま(42さい)』より、収録コラムの一部を特別掲載。最終回は、9月16日公開の映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』の、本書でしか読めない制作秘話。映画化が決まったときの原作者の気持ちを追体験してどきどき。

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雰囲気

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『コラムの王子さま(42さい)』渋谷直角

 僕のマンガ『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』が今秋、映画になります。えらいこっちゃです。以前、大根仁監督が「民生の曲が使用OKなら、俺が撮りたいな」とおっしゃって、でも疑り深い僕は「お言葉だけありがたく!」と半信半疑。こういう話はだいたい、「なったら面白いよね」という「雰囲気」が存在するだけで、具体化しないのが常。ちょっと話題になったマンガにはすぐ映像化の話が来るけど、それから何年?みたいなことも多いらしいのです。特に僕の作品なんて、マンガ界においては突端も突端、海まで渡って小さな無人島に生息する変な配色の鳥(飛べないやつ)みたいなポジションなので、所詮「ネタとして」だろうと、期待ゼロでした。

 それがある日、ホリプロから編集部に電話が来てみんな呆然。妻夫木聡さんが民生ファンだと聞いていたので、事務所に献本していたのですが、なんと「マンガを読んで、妻夫木が演じたいと言ってる」と。そこから急激に話が具体的になっていき、民生さんの楽曲使用も許可が下り、配給は東宝、ヒロインが水原希子さんに決まり、(これ、ガチ? しかも規模デカすぎない?)という「雰囲気」になっていって。

©渋谷直角

 あえて美談っぽくまとめてしまうと、普通なら「ネタ」のまま終わっていたと思うんです。もっと確実にヒットを見込めるコンテンツを探して、キャストや宣伝やらをいかに配置して当てるか、という逆算からスタートするのがビジネス。でも今回は、大根監督と妻夫木さんの「やりたい」という最初の思いがドンドン転がって巨大な玉になっていったという、この流れ自体がマンガみたいなもんで、僕、男泣きです。「俺がやらねば!」と思わせる「雰囲気」が、このマンガにもあったのかもしれん、と自画自賛して納得させるしか説明がつかない。「雰囲気」ってすげえな、という結論で。

 撮影現場の見学にも行ったのですが、紹介されるスタッフの方が全員(本当に全員!)、「この規模の映画になるのは驚きですね」とおっしゃり、口にはしないけど完全に(信じられない……)という「雰囲気」がビンビンで、僕も(ああ、みんなもそう思ってんだ……)とビビってます。でも、ここまで来たらもう「雰囲気」で公開まで行っちゃって、「雰囲気」で大ヒット!みたくなってほしい~!

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『コラムの王子さま(42さい)』ともども、よろしくお願いいたします!

コラムの王子さま(42さい)

渋谷 直角(著)

文藝春秋
2017年8月30日 発売

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