ついに発売! 渋谷直角6年ぶりのコラム集『コラムの王子さま(42さい)』より、収録コラムの一部を特別掲載。思わず「何の話!?」と笑ってしまう中毒性の高い作品群から、第1回は「ひらがなの個性」について。
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まみむめも
僕のカンだが、ひらがなの中でもっとも性格が悪い、面倒な連中は、「ま行」だ。
「ま行は嫌なヤツ」。そんないきなりの結論に、ついて来れない読者の方もいるかもしれない。でも、待ってくれ。まず、テーブルに指で「あ行」から書き始めてみてほしい。「あいうえお、かきくけこ」と順番に。するとあなたは、「ま行」の途中、「む」のあたりで、気づくはずだ。
「ま行、ウザッ!」と。50音の後半戦に襲ってくる、「ま行」の画数の多さにウンザリするだろう。最初の、「あ行」「か行」は余裕だ。指で書く動きすら楽しい。「い」や「く」の書きやすさ、「こ」の字の可愛らしさたるやどうだ。「さ行」もいい。「し」「そ」などのシンプルさ、さわやかさ。まるで塩顔男子だ。「そ」なんて、綾野剛ソックリに見える(病気)。
だが、「な行」ぐらいから様子がおかしくなってくる。「な」と「ぬ」という字にある、あの丸。あの丸が少し、指の動きを重くさせる。若干面倒くさい。とはいえ、「な行」には「に」「の」といった書きやすい字もあり、まだ指にやさしい。そのあとに続く「は行」。これも「は」と「ほ」が面倒くさい。これも丸だ。この丸が、ジワジワとこちらの体力を奪っていくのだ。
「うーん、シンドくなってきたぞ」。そんなこちらの気持ちを、あざ笑うかのように登場してくるのが「ま行」である。のっけから、「ま」「み」「む」の丸3連発。これがシンドイ。指は悲鳴をあげる寸前だ。なぜ、後半のタイミングでこんな面倒なやつらが出てくるのだ。「め」だって、最初のほうにあればこんなにツラく感じないのに、「まみむ」のあとに来ると、おそろしく面倒くさい。でも、それを申し訳ないとも思わず、ふてぶてしい態度を取る「ま行」。おそらく画数の多さをインテリだと思い込んでるんじゃないか。カンタンなことをやたらややこしい感じにしてくるのだ。「丸のない字が、会社を潰す」とか「丸なき時代のリーダーの条件」とか、そんな新書を何冊も出していると聞いた(幻聴)。居酒屋でさんざん下ネタで盛り上がってるのに、急に「民進党の連中はさ〜」「森友加計問題に話をズラすと〜」とか言い出す。面倒くせえ連中なのだ、ま行は。……まあ、僕がいちばん面倒くさいかもしれないが、僕の知人の男は、「る」の丸の部分に首を入れて、「る」をブンブン振り回したい、と言っていた。アイツよりはマシだ(どっちもどっち)。