親や先生の言うことを聞かない、学校生活に馴染めない、こだわりが強すぎる……。そんな子どもが身近にいる場合、大人は何をしてやれるのでしょうか。
東京大先端科学技術研究センターで「異才発掘プロジェクト ROCKET」のディレクターを務める中邑教授は、「上手に叱れる大人が減ってしまい、子どもがモンスター化することにつながっている」と指摘します。
中邑教授が上梓した『育てにくい子は、挑発して伸ばす』から、子どもを叱ること、伸ばすことについて考えます。
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ROCKETには万能感に満ちた子どもたちがたくさん集まってきます。自分は特別な存在で、天才的な能力を備えていると自負している様子です。彼らを批判すると、こちらも猛烈に批判されることになりますが、彼らが自分の足で生きていけるようになるために、伝えるべきことはきちんと伝えなければいけないと、常々思っています。
作家志望の小学3年生のW君はある日、私のところに「僕の文章を読んでください」とやって来ました。私は、「上手に書けているけれど、話題が面白くないね」と率直な感想を話したのですが、W君は「有名な作家の先生に会わせてください。先生のような素人に批判されたくありません。今度僕が添削してあげます」と、あくまで自信満々です。
私が「作家さんに会ってどうするの? まだ、そのレベルじゃないよ。今度コンペに出して自分を鍛えたらどう?」と提案したところ、彼はムッとした様子でした。自信作をけなされた上に、「コンペに出せば?」と突き放されたのですから、当然かもしれません。
「ROCKETはなぜ子どもたちを褒めずに挑発するのか?」とお父さんやお母さんたちから質問を受けることがあります。子どもは褒めて育てることが大切であることには、私も異論はありません。心理学の研究でも、罰は行動を一時的に抑制する効果はあるが、行動を変容させる持続的な効果は持たないという結果が示されています。小さなことでもなんでも褒める。すると褒められることに喜びを感じてその行動が強化される。行動心理学で「オペラント条件づけ」と呼ばれる行動形成のパターンです。「褒めて育てる」ことには、確かな根拠と実績があるといえます。
問題は、褒めているだけでいいのか、ということです。
ROCKETに参加する子どもの中にはとても能力が高く、一方で頑固な子どもがいます。困ると多くの親は専門機関に相談にいくことになります。そこで発達障害ですと言われれば、自分の子はユニークだから仕方ない、それを認めなければパニックが起きる、と考えるようになる親がいます。結果として、褒められたことはあっても批判されたことのない子どもばかりになります。そんな子は、頑固と我がままの区別がつかなくなっています。
さらに、注意しなければいけないのは、不登校などでひきこもった生活を送っている子どもは、同じ年齢の子どもがどんなものかよく知らず、自分の相対的な位置を認識する機会が少ないので、往々にして井の中の蛙状態になってしまうことです。褒めすぎることは、長い目で見ると、子どもにとって苦しい状況を招いてしまうこともあるのです。そうならないためにも適度な褒め方が必要です。