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小さな頃からコンプレックスがない万城目流「明るい諦念」──「作家と90分」万城目学(後篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2017/10/08

genre : エンタメ, 読書

note

次回作は中東と恐竜で「万城目らしさ」が爆発!

――今思い出しましたけど、昔、ドラゴンがいる世界の話をしましたよね。

万城目 ああ、ドラゴンが登場するストーリーには3パターンある、という話ですね。『ナルニア国物語』のように、ドアを開けるとドラゴンがいる異世界に通じる話と、『ロード・オブ・ザ・リング』のようにはじめから普通にドラゴンがいる異世界を描いた話と、今自分がいるような現実世界なんやけどどこかにドラゴンがいる話と。自分が3番目の話が好きですと言いましたよね。それも、まったく説明なしにドラゴンがどこかで生きている、という話。それは今でも変わらないです。

――でも、本当はファンタジー要素のない話を書きたかった、と?

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万城目 いや、まあ、そういう要素のないものも普通に書きますよということです。書きますが、でも次の新作はですね、結構あからさまにそのへんの要素が散りばめられまくっているというか……。

――はあ?

万城目 人間、複雑な生き物ですよねえ。次は中東を舞台に書こうと思っていて。『小説幻冬』で今月(11月号)から連載をスタートさせるために、今せっせと書き進めているんですけれども。もうね、すごく晴れやかな顔で「万城目らしさ」を爆発させてます、と言えますね! これまでの話は何やったんや、という。

――なんですって(笑)。そういえば取材旅行に行ってましたよね。

万城目 そうそう、ヨルダンに行ってました。実際の舞台に考えているイラクにはさすがに行けないので、お隣のヨルダンで砂漠を感じてきたんです。内容はね、これがまた難しくて、説明できないんですよ。中東と恐竜をね、ちょっと絡めてやっていこうかなと。タイトルは『ヒトコブラクダ層ぜっと』。

――「万城目さんらしさ」が爆発した、現実世界のどこかにドラゴンがいる話?

万城目 ああ、そんな感じですね。でもまだ主人公が中東に出発できず、日本でウジウジしていますね。この作品の次は、またちょっと京都が舞台の話に戻ったりとか。

――え。昔「もう京都を舞台にしたものは書かないんですか」って訊いたら「もう京都は書きつくして焦土と化して何も残ってないから書かない」って散々言ってましたよね。そこに焦土からまた芽が出て花が咲いたわけですか。

万城目 違う地層が見えたんですね。あ、これならば書ける、みたいな。大学生がどうこうする話はもう書かないけれども、京都が舞台やけれども、まったく違う感じの切り口が見つかるもんですね。それで京都を書いてみようかと思っております。

瀧井朝世さん ©石川啓次/文藝春秋

今日のインタビューは「深夜の長電話」みたいなものだった!?

――デビュー10年を過ぎて、最初の頃とは相当違うところに立っている気がしますか。

万城目 そうなんですよね。それで、『鴨川ホルモー』というデビュー作の看板の大きさを、ようやく意識するようになってきたんですよね、逆に。『鴨川ホルモー』を読んで「こういうのが好きなんです」って笑って言ってきてくれる人たちに、どういうものを次に渡すのかというのが、つねに心のどこかにあります。それは一番難しい問題だから。似たものを出すのか、違うものを出すのか。

――でもどうしたって、まったく違う人が書いたような作品にはならないですよね。万城目さんのエッセンスは絶対ににじみ出てくる。

万城目 それはそうです。考えすぎなんですかね……。単に深刻ぶって心で思考ゲームをしているだけかもしれません。まあ、意識するぶんにはいいと思うんですよ。実際書く時はそんなの結局は全部無視して、好きなストーリーを書いちゃうので。今、4、5年先まで自分で書こうと思っているものは決まっていますし。つまり、みんなの声を気にしているふりして全然聞いてないんですよね。

――結局マイペースじゃないですか。

万城目 今日は長々と愚痴を言っただけかもしれないです。深夜の長電話につきあって損したわ、みたいなやつですわ。

――ほんとですよ(笑)。あまり心配しないで次を待とう、という結論に達しました。

万城目 はい、大丈夫です、からっとしてますから。

©石川啓次/文藝春秋