幼い頃夢中になって読んだ『おちゃめなふたご』から新作『ハッチとマーロウ』へ

――新作『ハッチとマーロウ』(2017年小学館刊)は11歳になった双子の女の子の1年間を描く、とても愛らしいお話です。こうした作品を書きたいという気持ちは以前からあったのですか。

ハッチとマーロウ

青山 七恵(著)

小学館
2017年5月23日 発売

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青山 小学校3年生の頃、イギリスの作家ブライトンの『おちゃめなふたご』シリーズに夢中になったんです。学校の図書室で、1冊1冊大事に借りて読んでいました。翻訳版は田村セツコさんのイラストで、表紙もすごく素敵な本だったんですよね。全6巻ありますが、登場人物全員の名前を暗記して、お風呂なんかでずっと暗唱していました(笑)。作家になってからも、『おちゃめなふたご』を入口にして本というものの世界に入ってきたという意識がずっとあったので、いつかは自分もああいう本を書いてみたいと思っていました。

 今、デビューして12年ですが、10年経った頃にいままでの全著作を読みかえさなきゃいけない機会があって、そのとき改めて、毎回違った作風のものを書いているつもりでも、結局私自身の関心は誰かと誰かの1対1の関係に戻ってきてしまうんだと気づきました。特に、それぞれ独立している個人がくっついたり離れたりしているうちに、自分と相手の境が曖昧になったり、何かが決定的に欠けてしまったように思えたり、誰かとの関係を通して個人のあり方が変異する瞬間というものに惹かれているように思います。そうして対になる存在を飽きもせずにしつこく書き続けているということは、振り返ってみると、やっぱり『おちゃめなふたご』に出てくるパットとイザベルの存在が意外と大きかったんじゃないかと。ずっと昔に二人が開けてくれたドアから続く道を今の自分が歩いている気がするのですが、このあたりで深呼吸をして、自分を書くことと読むことの世界に引き入れてくれた二人に呼びかけてみたい、という気持ちもありました。

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――『おちゃめなふたご』は双子が寄宿学校に入りますが、『ハッチとマーロウ』は信州の穂高で、ミステリー作家の母親と3人で暮らす小学生です。11歳の誕生日を迎えた大晦日の日、ママが「大人を卒業する」と宣言。新年から彼女たちが、料理や洗濯や掃除にと大忙しです。この設定は。

青山七恵さん ©榎本麻美/文藝春秋

青山 11歳という年齢にそれほど思い入れはないんです。双子が11歳だと1が4つ並んでいいな、と思ったのと、あとは自分が家事をするようになったのがそのくらいの歳だったということもあります。毎日ではないですが、掃除機をかけたりお米を炊いたり、自分は子どもだと思っていたけどやる気になれば一人でもどうにか生きていけるのかもしれないと気づいた年齢でした。

 穂高を舞台にしたのは、妹の結婚相手が長野の松川村のご出身で、妹の結婚式が長野であった時、あちらのご両親の別荘に泊まらせてもらったんです。穂高の山のふもとの森の中で、すごく静かでいい場所で、こういうところに隠居したいと思いました(笑)。

 これまでは東京や東京近郊を舞台にしたり、場所がはっきりしないところを書くことが多かったのですが、双子の小説を書こうと思ったとき、直感的に穂高のあの家に住まわせたいなと思いました。