それは「世にも奇妙な物語」から始まった
――『パーマネント神喜劇』(2017年新潮社刊)は一風変わった縁結びの神様たちが登場する連作短篇集。笑いながら読み進めていたら、最後にぐっとくるものがありました。この作品は成り立ちがいつもと違ったそうですね。
万城目 2010年にテレビの「世にも奇妙な物語」から、作家たちが原作を書く回にしたいので、1作書いていただけないかとオファーが来まして。そのオファーのメールを読んだ後に、予約していた整骨院にマッサージに行って、30分もみもみされている間に思いついて書いたのが、第1話の「はじめの一歩」です。
――そんな短時間で作ったんですか!「まずはじめに」が口癖で何事も段階を踏まないと気がすまない青年が、恋人に愛想をつかされそうになった時、縁結びの神様が現れて彼からその口癖を奪う、というお話。それが大野智さん主演で映像化されて、万城目さんもエキストラ出演されて。ただ、蓋を開けたらその回は、新たに短篇を書き下ろした作家は万城目さんだけだったという。
万城目 そうそう。聞けば錚々たるメンバーだったので自分も頑張らないとと思って書いたら、他の人はみんな文庫収録済の短篇を使っていたという(笑)。そこから始まって、結局足掛け7年で4篇書くことになりました。というのも、「別冊文藝春秋」で「時」をテーマに特集するので短篇を書いてほしいと依頼された時に、「はじめの一歩」で書いた神様でもう1篇くらい書けるんじゃないかと思ったんです。それで、彼らと時間の話をからめて書いたのが3話目の「トシ&シュン」でした。それを書いた時に手応えを感じまして、あと2篇くらい書いたら1冊に仕上げられるなと思ったんです。それで去年一気に仕上げました。
どの話も2回くらいはどんでん返しを入れようと思った
――そもそもなぜ、縁結びの神様を主人公にしたのですか。
万城目 自分が好きだった「世にも奇妙な物語」の回って、なにかひとつ日常とは違うルールが入ってきて、それに全員が従って、日常がずれていく話が多いんです。それで「何か超常的な力が、1歩目を奪う」というシーンが浮かんだんです。小説には書いていませんけれども、時間から1時がなくなるとか、階段から1段目がなくなる、といったことを考えたんです。その1歩目を奪われたことで主人公がすこし良い状態になる話にしたくて、ウジウジした部分が抜けることで恋愛が成就する若者の話にしよう、じゃあ誰が彼からその1歩目を奪うのかを考えて、ああ、そうだ、恋愛が成就して縁結びの神様の手柄にカウントされる話にすれば、神様もいろいろ頑張るかな……ということだったと思います。
で、「世にも奇妙な物語」だから、1回じゃなくて2回くらいどんでん返しを入れたほうがいいと思って、ああいう話になりました。
――そう、一筋縄でいかない展開なんですよね。神様が人間に何かして物事が好転するだけの連作短篇集だったら分かりやすいけれど、それではちょっとつまらないなと思ったら、全然そうじゃなかった。神様界にも昇進試験や部署異動があるのもユニークで。
万城目 そうですね、どの話も2回くらいはどんでん返しを入れようかなとは思いましたね。
――「トシ&シュン」は芥川龍之介の「杜子春」をなぞったものだという。
万城目 時間をテーマにしてほしいと聞いてぱっと思い出したんです。芥川龍之介の中で一番好きな短篇が「杜子春」だったんです。それでトシとシュンの話にしました。これは高校の時にたしか「杜子春」が教科書に載っていたと思うんですけれど、現代文の先生が、中国の話を芥川がリライトしたものだと教えてくれたんです。主人公の杜子春がすべての感情を捨てれば仙人になれると言われて修行して、痛みや恐怖に耐えてきて、最後に地獄で死んだ両親が鬼にミンチにされる。中国の原典ではそれにも動じずに仙人になっちゃうんですけど、芥川の話では「お母さん」って言っちゃうんですよ。先生が言うには、芥川は愛という感情だけは捨てさせなかったっていう。先生の話したプラスαの部分も含めて、一番好きな話なんです。だから「トシ&シュン」も、縁結びの神が本来の勤めと矛盾する行為と分かっていても、命令に従うのかどうかという部分が入っていますよね。
――次に書いたのが収録順では2話目の「当たり屋」なんですね。
万城目 1話目で神様が縁結びのことだけやっていたので、他はちょっと違う仕事に関わるようにしたんです。「トシ&シュン」で芸能のことをやりましたので、他にみんなが神社でお願いすることって何かなと思ったら、やっぱり博打かな、と。病気とかもあるけれど、それをあんまり面白おかしく書くのもどうかなと思って。博打の絶対当たる10回券みたいなのを神様からもらうというのと、車にわざと当たって相手を脅してお金を取る当たり屋とをかけて、当たりまくる男の話にしたらよかろうかという。それに、1話目で神様が昇進試験を受けて、3話目で別の神社に行っているので、2話目は引継ぎの時期にしようかなと考えました。