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SFとしての設定そのものが謎解きの仕掛け

『タイム・リープ』 (高畑京一郎 著)

2016/12/24
note

 SFとミステリは対比されることの多いジャンルだが、SFは物語全体の枠組み(現代科学で存在が証明されていない世界が舞台だったり現象が起こったりする)を表し、ミステリは読者に驚きを与える物語内での仕掛けを指す。

 したがって両者は相反するものではなく、SFの設定で謎解きがなされる「SFミステリ」も数多く存在する。

 逆に「ミステリSF」という作品はあり得るか? 「SFとしての設定そのものが謎解きの仕掛けになっている」作品の数少ない実例が、高畑京一郎『タイム・リープ』だ。

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 高校二年生の鹿島翔香が登校したその日は“火曜”だった。昨日は日曜日だったはずなのに、なぜ……? 友達によると昨日も翔香は普通に出席して授業を受けていたという。私は記憶喪失になったのか?

 狐につままれた気分で「火曜」を過ごした翔香は帰宅して日記を開く。そこには月曜の日付に自分の字で「クラスメートの若松くんに相談しなさい」と書いてあった。

 翔香はその後も未来へ飛んだり過去に戻ったりといった「タイム・リープ現象」に悩まされる。最初は翔香の話をまるで信じなかったクラス一の秀才・若松和彦だが、ある方法で翔香が嘘をついていないことを証明し、さらにこの現象の法則も解明していく。

“通常”の時間軸にいる和彦は名探偵のような論理的思考力を武器に、メチャクチャに狂った翔香の時間軸を整理して事態の収拾を図っていくのだ。

 本書は奇妙なタイム・リープ現象が発生するSFであり、その謎を解明していくミステリであり、男女の出会いを描いた青春小説でもある。知的でスマートで贅沢なエンターテインメントだ。(日)

タイム・リープ―あしたはきのう

高畑 京一郎(著)

メディアワークス
1995年6月 発売

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SFとしての設定そのものが謎解きの仕掛け

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