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談合決別宣言間際の小沢一郎と二階俊博の“不正献金”問題 「関西談合のドン」が語る“和歌山事件”の現場とは

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #23

2021/04/27

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

note

知事を操り公共工事を差配する調整役

 大阪府の副知事から和歌山県知事に転身した木村は選挙基盤が弱い。井山は木村のために建設談合組織を巧みに使い、政治基盤を固めてきた。太田房江の大阪府知事選に見られたように、談合組織は選挙の集票マシーンとして絶大な力を発揮する。かたや建設会社としても、知事に対する選挙協力は、地元政界に対する大きな貸しになるわけだ。そんな業界と政界を結びつける役割が、井山のような陰の存在といえる。

 そうして知事の木村は、次第に井山を頼り切るようになる。ゴルフ場の経営者に対し、県の政治顧問という肩書を与えて遇した。それが井山の存在をますます大きく見せる。そんな構図だ。

 事件における井山の役割は、知事である木村の威光をバックに、県内の公共工事を差配する調整だった。土木工事における談合のボスは、スーパーゼネコン大林組顧問の日沖九功だが、井山は日沖にも顔が利く。そうして県発注のトンネル工事で影響力を行使してきたのである。知事を操る黒幕、井山は和歌山県発注のトンネル工事において、その役割を果たしたといえる。

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知事室へ運んだ1億1000万円の賄賂

 事件の渦中、井山は年間に数100万円もの裏金を木村へ恒常的に渡してきた。ブランド高級腕時計3個と合わせ、木村の金品受領総額は2000万円を超える。そのうち、知事室へ運んだ1億1000万円の現金が賄賂と認定され、贈収賄事件として立件されたのである。先の東急建設の石田が事件当時の記憶を呼び起こす。

「ゼネコン各社はどこもトンネル工事を取りたかったので、受注競争は激烈でした。スーパー(編集部注=大手4社のゼネコン)以外は、黙って指をくわえて工事を取れるわけがない。だからこそ政治力が必要だったのです。そうして大林組、ハザマ、奥村組が中心のJV(共同企業体)で、うちも何とか工事を受注できました」

 東急のトンネル工事の落札額は、11億7800万円にのぼった。トンネル工事で井山に渡したのは3000万円だから、落札額の2.5パーセントにあたる。1パーセントから5パーセントとされる工作資金相場の範囲内だ。事件では、東急建設をはじめ、各社の人間が軒並み検挙された。その工事の受注工作で、地検に追及されたその実体験に根ざした当人の告白にはやはり迫力がある。

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