ヤクザの腕を日本刀で切り落とし、窃盗グループを率いて数億円を荒稼ぎ――。1980年代後半に中国残留孤児2世、3世を中心に結成され、その凶悪さから恐れられた半グレ集団「怒羅権」。その創設期のメンバーで、13年間刑務所に服役した筆者・汪楠(ワンナン)氏の著書『怒羅権と私 創設期メンバーの怒りと悲しみの半生』(彩図社)が話題だ。
「包丁軍団」と呼ばれた怒羅権の荒れ狂った活動の実態から、出所後に犯罪から足を洗い、全国の受刑者に本を差し入れるプロジェクトを立ち上げるまでの壮絶な人生を描いた汪氏の自伝から、一部を抜粋して転載する。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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ナイフを使う目的は、血を大量に流させ、戦意を奪うこと
怒羅権は「喧嘩が汚い」「タイマンでも金的蹴りなどの反則技が多い」と非難されます。ナイフで相手を刺すことも一切躊躇しないため、凶悪な集団だと恐れられ、「包丁軍団」と呼ばれることもあります。
しかし、刃物を使うのは当たり前のことなのです。
3日も4日も食べないことが珍しくなく、体力がありません。そうした者が喧嘩で生き残るためには速やかに相手を倒す必要があります。つまり、刃物を使うことに限って言えば、凶暴だから使ったわけではなく、むしろ考えた末、生き抜くために使ったというのが正しいのです。
ナイフを使う最大の目的は、血を大量に流させ、相手の戦意を奪うことでした。だから「怒羅権はすぐに刺す」などと言われますが、実は私たちは刺すよりも切ることを優先します。その方が出血は多くなりますが、致命傷になることは少ないのです。
血は想像以上にすべる。ツバがないナイフで刺すと…
多勢相手の喧嘩で生き抜くにはこのナイフの使い方が生命線だったので、私たちは自分なりに試行錯誤し、多くのことを学びました。
ナイフを選ぶときは、刃の金属が柄の奥までしっかりと伸びているものが重宝されました。コンビニなどで安価に売っているフルーツナイフのようなものはだめです。乱闘の際、とくに学生服のような生地の厚い服を着た相手を刺すと、すぐに折れてしまいます。刃が折れると大抵自分の拳を傷つけてしまうので危険です。
また、ツバのないナイフもよくありません。血は想像以上にすべります。ツバがないナイフで人を刺すと、柄を握る手が前方にスライドし、そのまま刃に触れてしまって怪我をします。
一時期は少年犯罪の象徴のように語られたバタフライナイフは、とくに忌み嫌われました。刃が薄く折れやすいうえ、ツバがないので刺した際に自分の手を傷つけやすい。実用性の面からいえば最悪の武器です。
ナイフの構え方にもコツがあります。日本のヤンキーはナイフを見せて、相手を脅すことを目的としているので、まな板に向かうときの包丁のような持ち方をします。これはよくありません。相手が鉄パイプをもっていたらすぐに叩き落とされてしまうし、ブーツを履いた前蹴りでも落としやすいのです。