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戦わなかったらどこがファイターズだろう――少年時代に帰ってラジオを聴く日々

文春野球コラム ペナントレース2021

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 直近の例を話したい。阪神2回戦。先発は加藤と秋山。前の晩、抑えの杉浦が打たれ競り負けている。僕はてっきりHBC等、北海道制作の実況中継が関西にも行ってるんだとカン違いしていた。大阪の番組表を見たらABCもMBSもクルーを札幌に送り込んでいる。さすがセの首位だ。勢いがある。予算が使える。たまには「MBSベースボールパーク」を聴いてみるかという気になった。解説は藪恵壹&亀山つとむの両氏、実況は三ツ廣政輝アナ。CM明け「パ・リーグ倒すのは阪神でしょ!」ってブリッジがいちいち入るのがシャクにさわるけど、テンポもよく、3人の息も合っていてとてもいい中継だった。

 で、MBSラジオ実況席からパの最下位、交流戦9位(9日試合前の時点)のファイターズがどう見えていたか。1回裏、ファイターズの1、2番淺間、高濱が前夜のアクシデントを受け、五十幡(肉離れ)、中田(急性腰痛)の代わりに出た選手であることを踏まえて、亀山つとむ氏がコメントする。

亀山さん「オーダー見ても、王選手はいますけど、どんどん打ってくる打線の感じはしませんもんね。きっちり守ってきっちりと加点してって感じの戦いがせいいっぱいじゃないですかね、今、見てると」

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三ツ廣アナ「(高濱は)そんななかで今、バスターエンドランですか、ヒッティングに切り替えてきて打ったということは」

亀山さん「ですから堂々と打つわけじゃなくね、手を替え品を替えですよね」

 ファイターズには大砲がいない。不振の中田翔をファームで調整させて、やっと1軍に戻したタイミングだった。中田腰痛抹消、大田泰示不調、ロニー・ロドリゲスさっぱり、清宮幸太郎は今季1軍登録なし。ホームラン数が交流戦上位チームの半分ほどだ。ヒットや四球で塁を埋めてもここ一発が出ない。交流戦で勝ち越したのは東京ドームの巨人戦だけだ。狭い東京ドームで中距離砲・王の2試合連発、高濱の代打満塁が飛び出したのには感じ入った。ホームランは効くなぁ。エラーが出てもリリーフが失点しても、(不本意ながら)何とかなっちゃうんだなぁ。

ファイターズにファイトがなかったらどこがファイターズだろう

 2回表、三ツ廣アナがそのものズバリ、ファイターズのチーム状況を尋ねる。

 亀山さん「小粒ですね、正直言うと。今日はね、戦いやすいはずなんですよね。(中略)今まで戦ってきたパ・リーグの打者が一振りでって打者が多すぎたんですよね。中田君元気で、大谷君いて、ちょっと前までレアードもいたので、うわあっていう雰囲気があったんですけど、巨人から大田選手が来たりとかね…。今日に至っては中田君もいないので。ですから(阪神は)この後、仙台行って楽天ですよね。なかなかの戦力ですから」

藪さん「そっちはもう三枚ね、エース級が来ますよ」

亀山さん「なのでこっちはしっかり取っとかないと痛い目見ますからね。昨日せっかく原口君が打って取ったんですから3つ取って仙台乗り込まないと」

 なるほどパ・リーグの最下位はそう見えてるんだなぁと思った。いや、これ、亀山さんがこんな酷いこと言ってましたよ的な話じゃないのだ。応援放送だからそこは気にならない。それよりも、次の言葉にハッとしたのだ。たぶんファイターズファンは意表を突かれるんじゃないだろうか。

亀山さん「昨日も、初回から前進守備敷いてきましたからね。1点もやれないって感じで。どうあってもロースコアの試合に持ち込みたいという」

 あ、初回から前進守備(!)。そうだった、前日の阪神1回戦はエース上沢の先発だった。いきなり近本に三塁打を喫し、ピンチを背負う。そこから四球2つで無死満塁になる。僕らファン(ファイターズの文脈を理解する者)にはある程度、了解事項がある。上沢で勝てなかったらまずいのだ。そして、上沢ならギアを上げてこの場面を切り抜けてくれる。上沢がコケたら総崩れだ。点を取られたくない。だから前進守備を敷いた。

上沢直之

 ファイターズファンからすると自明すぎて、素通りしてしまいそうだ。が、外部の目(亀山さん)からは違和感がある。なぜ最初から守勢にまわるのか。3連戦のアタマ、その初回だ。点を取られたら打って返せばいいじゃないか。少なくとも「糸井嘉男に7番を打たせる阪神」を見てきた亀山つとむさんにはそう映る。

 僕はウォーキングを止めて立ち尽くした。あぁ、これは中田のアクシデントというような事柄じゃない。野球が小さくなっている。「スモールベースボール」と言えば上等なことのように響くが、自分らを信じ、向かっていく勇気に欠けている。ファイターズにファイトがなかったらどこがファイターズだろう。戦わなかったらどこがファイターズだろう。

 と、感極まってる間に加藤が4点取られた。うわあ、こんなラジオ聴いちゃいられねぇと全力疾走で家に引き上げたら次の回、更に4点取られた。怖ろしいラジオを聴いてしまった。黄昏どきはやっぱり魔物に遭遇するらしい。

 ※もちろんファイターズはホームで阪神に3連敗した。サトテルにボッコボコにされたというんじゃなく、2つは競り負けだ。だけど、戦力差は歴然だった。このままじゃパで1チームだけ置いていかれてしまう。

◆ ◆ ◆

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