昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「何かすいませーん!」苦しいときに輝く男・杉谷拳士は“本当のヒーロー”だ

文春野球コラム ペナントレース2021

 今年のGWは胸ふさがる思いだった。4月30日に中島卓也、西川遥輝、清水優心のコロナ陽性が判明し、濃厚接触の可能性があるとして淺間大基がチームから隔離された(後に淺間は濃厚接触者と判定される)。これを受けて全選手、スタッフのPCR検査が実施され、5月1日、今川優馬が再検査、他に感染疑いとして高濱祐仁、郡拓也、R・ロドリゲス、そして飯山裕志コーチ、スタッフ2名がチームを離れる(後に陽性判定)、西武6回戦は26人の出場枠に満たない22人で試合を行なった。

 非常事態である。今シーズン開幕以降ではヤクルトと巨人から陽性者が出ているが、これはもっと規模が大きい。翌2日の西武7回戦は中止が決まった。僕はもしかすると3日からのロッテ3連戦(ZOZOマリン)は鎌ケ谷組だけでオーダーを組むことになるかもしれないと思った。

 これが札幌市保健所からクラスター認定(選手7人、スタッフ3人)を受けた出来事の発端だ。

 北海道日本ハムファイターズは(練習も含めて)活動停止に追い込まれる。西武7回戦に続いて、ロッテ3連戦の中止が決まる。対戦相手の西武、ロッテの2球団には迷惑をかけてホント申し訳なかった。「活動停止」だから当然なのだが、野球がないのだ。他球場はやってるのにうちの試合がない。心が死ぬ。心配ばかり頭に浮かぶ。

 飯山コーチは2度目の感染のはずだが、重症化してないだろうか。西川はやっとエンジンがかかってきたのに。中島は伊藤大海の勝ちをフイにしたエラーを取り返したいだろう。清水は今季また泣いていた。こんな戦線離脱は悔しいだろう。高濱、郡はやっとチャンスを掴みかけた。今川、ロニーはまだ1本もヒット打ってないのに離脱だ。やりきれない。みんな無事にホームへ帰って来い。生還しろ。野球はそういうゲームだ。

知人が送ってくれた試合中止の告知。ゴールデンウィークは胸ふさがる思いだった ©えのきどいちろう

僕は杉谷は本当のヒーローだと思う

 風薫る5月。本来はいちばん爽やかな季節なんだけど、気分はトンネルに入ってるようだった。緊急事態宣言でどこへも行けない。この先どうなるかもわからない。気持ちがずーんと沈みかけたとき、ひとりの選手の顔を思い出して、支えにした。その顔を思い出すと元気がわいてくる。

 帝京魂、背番号2、杉谷拳士。

 活動停止前の、最後の試合になった西武6回戦、ヒーローは今季まだノーヒットの杉谷だった。3点を追う9回裏、中田の4号2ランと大田の適時二塁打で同点に追いつき、なおも2死満塁の場面で杉谷が押し出しの四球を選び試合を決めた。魂の押し出し。打率0割のヒーロー。サヨナラの好機にベンチから「バットを振るな!」の指令(?)が飛んだという。そして、杉谷は振らなかった。チームメイトからウォーターシャワーの手荒な祝福を受けた後、サヨナラ殊勲のヒーローはマイクを持たされる。

「みなさん、何かすいませーん! こんな状況ですが、全員の力が9回に結集されて僕のところにまわってきました!」

 あぁ、杉谷拳士は何という男だろう。多くのファンが推し選手の陽性判定にショックを受け、どん底のチームを思い、凹んでいるとき、「何かすいませーん! こんな状況ですが」のひと言でその一切合切をカッコで括ってしまう。「こんな状況ですが」全員の力で勝ったんですよというのだ。それが結集されて、自分にバットを振らせなかったと。考えれば考えるほど笑いがこみ上げてくる。「積極的見逃し」で四球を取ったそうだ。僕は杉谷は本当のヒーローだと思う。いちばん苦しいときにキラキラ輝く男。

押し出し四球を選び試合を決めた杉谷拳士

今のファイターズには一軍も二軍もない

 ZOZOマリン中止の後、7日からの楽天戦(札幌ドーム)の開催可否がなかなか決まらなかった。NPBの臨時実行委員会はGW明けの6日まで開催されなかった。これは対戦相手の楽天・石井一久GM兼監督も苦言を呈しておられた。それはそうだろう。日程通り、9連戦を終えたところだ。楽天は6日の移動日に博多→札幌だ。やるかやらないかは早く教えてほしい。もちろん準備のあることだし、もしもやらないとあらかじめわかっていたら9連戦の投手起用が違っていたかもしれない。

 幸いなことに7日からの楽天戦開催はGOサインが出た。6日のPCR検査で新たな陽性者が確認されず、札幌市保健所から活動再開が認められたことがNPB臨時実行委員会を動かした。実に6日ぶりの公式戦が決まった。大一番である。スポーツチームには絶対に逃げちゃいけない試合がある。もはや勝敗ではない。勝とうが負けようがベストを尽くし、自らの存在証明をする。勇気を示す試合だ。戦わなければバラバラに壊れてしまう。戦わなければ人が離れてしまう。