口の中がからからに乾いていました。マウンドには杉浦稔大。4月28日、PayPayドームの9回裏です。スコアは4−3。
先発は伊藤大海でした。ドラフト1位ルーキー、5試合目の登板ですがここまでまだ勝利なし。6回1失点、7回3失点、6回2失点、7回3失点。全試合QS達成ながら0勝2敗という結果になっていました。特に前回登板の4月21日、対マリーンズ戦……つらくて詳細を書きたくないのでどうか文春野球ファイターズのエース・斉藤こずゑ4月29日付コラム「もう気遣いなんていらない――杉浦稔大投手とファンの関係性が変わった理由」をご参照下さい。ツーアウトからの逆転サヨナラツーラン被弾はこたえます。
この試合中に見たファンのツイートは、どれもこれも「チームの勝利」ではなく「伊藤大海の勝利」のことばかりでした。皆それほど彼に勝たせたかった、勝ってもらいたかった。やっと、と思ったのに……彼自身が逆転弾を打たれたのではなかった分、かえって打ちのめされた感がありました。
しかも打ったのが元ファイターズの岡大海。今なお「岡ーズ」を自称するえのきど監督も、これには《ひろみめー。ひろみが不憫だよー。ひろみめー。》とツイートしたほどでした。あ、最初の「ひろみ」は岡大海で、次の「ひろみ」が伊藤大海のことです念のため。ええいまぎらわしいっ。
「うちのヒロくん」だって負けてないよ
開幕1か月で「今年の新人王は」みたいな気の早い記事を既に見かける訳ですが、未勝利のままだとそういう時にもほとんど言及されません。確かに早川隆久も鈴木昭汰も逸材ですけれども、「うちのヒロくん」だって負けてないよと身びいきで思ってしまうのです。パ・リーグの奪三振トップですよ。23イニング連続奪三振はファイターズの球団記録タイですが、NPB新人記録タイでもあるのです。ねっ大したもんでしょう。ね。ねっ。
とか何とか言いながら、次の登板は、今度こそ打たれてしまうんじゃないかという心配に取りつかれた状態で迎えました。ルーキーが4試合連続QS達成。5試合目もなんて本当にそんなうまくいくだろうか。しかもどういう訳だかファイターズ、去年から連敗中だったホークス相手に前日7−2で勝っていたのです。13安打7得点。こんなに打った次の試合は今度は打線沈黙ではと恐れるのが野球ファンあるあるです。
試合開始。伊藤大海、はたして1週間前の快投とは少しばかり様相が違います。奪三振も少ないし、四球も毎回。先頭打者の出塁も多い。でも失点はしないんです。併殺で。凡フライで。着々とアウトを重ね、イニングを重ねていきます。ルーキーが頑張っているという感じではないんですよね。脂の乗り切った先発ローテの柱が、要はホームに還さなければいいんだよと落ち着き払っているようにさえ見えてきます。そして前回に引き続き打線が先制してくれました。小刻みに加点して、6回を終わって4−0。102球で降板です。あとはリリーフ陣に託されました。
7回裏、玉井大翔と堀瑞輝で1失点。8回裏、ブライアン・ロドリゲスで無失点。
《最近は仕事でどんなに報われないと思うようなことがあっても、「日本ハムの伊藤大海投手に比べればマシだ」と思うことで乗り越えてきた。だから今日「さすがに無失点なら勝てるだろう」とばかりにソフトバンクを無失点に抑えた伊藤投手に、プロ初勝利がつくことを心の底から祈っている。》
はらはらしながら見守る試合の終盤、TLに流れてきたのは文春野球ジャイアンツ監督・菊地選手さんのツイートです。な、何もここまで「悲運」とか「報われない」の象徴みたいに言わなくたっていいじゃないですかあ。いや判ります。判ってるんですエールをおくって下さっているのは。でも、でもっ。
ファイターズ打線は追加点をあげることができず(だってホークスのビハインドなのにリバン・モイネロが出てきたりするんですよお)、3点差でとうとう9回裏まで来たのでした。