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たった1つのアウトがこんなに苦しい

 勝つために必要なアウトの数、27。そのうち24個をもう取りました。あと3つ。3つだけです。でもその3アウトがとてつもなく重い。

 好調時の杉浦稔大なら、僅か1点差であっても落ち着いた様子でぽんぽんと三者凡退なのですが、どうしても1週間前の試合が頭をよぎるのは致し方なく、でもあの時と違って3点差あるから、1本打たれたらジ・エンドではないから……と思ううちに先頭の松田宣浩、初球をセカンドフライです。先頭打者を抑えるとかなり不安はやわらぎます。よかった、あと2人……今宮健太ツーストライク……えっ。あっ!

 打球はレフトスタンドへ。今度もまた打たれてしまった、ホームラン……でもまだ追いつかれていない、1点差でもない。ランナーをためるよりむしろこの方が怖くない。自分に言い聞かせます。ほら、川島慶三2球目を打ってセンターフライ。ツーアウトランナーなし。あと1人だから。あとアウト1つだから。でも打席には柳田悠岐。一番怖い人がここで来た……えーっ!

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 彼にも打たれてしまいました。ライトスタンドへのホームラン。1点差です。こう立て続けに打たれると、二度あることは三度あるという気になってくるもの。しかも次の打者はジュリスベル・グラシアル。

 初球ボール。2球目もボール。

 もうツーアウトなんだけれども。あと1つ。たった1つのアウトがこんなに苦しい。

 あ!

 止めたバットに当たったピッチャーゴロ!

 杉浦稔大が素早く打球を拾い上げファーストに送球します。中田翔はベースについてボールを受け、そして確かにもう一度、ベースを踏んだ足にぎゅっと力を込めたように見えました。

 1週間前には取れなかった27個目のアウト。ついに、やっと、とうとう、ようやく。伊藤大海の1勝目です。

5戦目で待望のプロ初勝利をあげた伊藤大海

 4月21日の試合の時、解説していた岩本勉が「既にチームの信頼を得ている投手」だと評していました。勝ち星の有無もルーキーであることも関係なく、ベンチの、チームメートの、確かな信頼を既に勝ち得ている投手。だとしたら、初登板からこの初勝利までの彼の日々は、決して「報われない」だけのものではなかった筈です。

 そんなこともあったねと、いつか話せる日が来ます。きっと笑って話せます。

翌日の道新スポーツ(2021年4月29日付)はこれまでの4試合の1面も ©青空百景

追記:今ファイターズは新型コロナウイルスのクラスター発生でチーム活動停止という状態になっています。この嬉しい試合の日には思ってもみなかった大嵐、ここは肚を据えて、今こそ応援のし甲斐のある時だくらいに思った方がいいのかな、なんて考えているところです。といっても試合もないのでここに書くくらいしかできませんが……負けるな、ファイターズ!

北海道新聞(2021年4月29日付)には社会面にもこんな囲み記事が載りました ©青空百景

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