昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

一軍未勝利の名コーチ あなたはファイターズの「厚沢和幸」を知っていますか

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/14

 皆さん初めまして。今井豊蔵と申します。パ・リーグ見続けて30数年という、ただのおっさんです。

 昭和のパ・リーグ、特に関西の球場ではまだ1軍経験の浅い選手がグラウンドに駆け出すと「お前誰やねん?」と暖かくもおっかないヤジがたくさん飛んだものでした。そこで選手が活躍すれば「やるやんけ」と手のひら返しになるのもまた、お約束でしたが……。

 それにならえば、当方もまた「お前誰やねん」とヤジられてもしょうがないルーキーです。思えば2月、えのきど監督からメッセージで「コラム書きませんか」と突然の指名を頂きました。かつて、パンチ佐藤氏(元オリックス)がドラフト直後、上田利治監督からの電話に「自分の心は一つです」と応えたように「はいはい~」と即答できれば良かったのですが、小心者の当方はそうもいきません。

 文春ファイターズは昨季も日本一に輝いた強豪。その中で何が出来るかもわからず、とりあえず「どんなことを書いたらいいでしょう?」と問い返したところ、監督からの指示は「なんでもいいよ」というまさかのノーサイン。わかりました。それならば趣味色全開でやらせていただきますということで入団の運びとなりました。

 そうこうしているうちにプロ野球は開幕し、当方デビュー登板の日もどんどん迫ってきます。キーボードを打っては消し、打っては消ししているうちに、私の住む札幌でも試合が始まりました。ネタ探しには球場が一番、ということで行ってきたのは4月2日のロッテ戦。グラウンドに目を凝らすと、目の端に引っかかる光景がありました。

1軍未勝利の厚沢投手コーチ

 開幕前、日本ハムから少し変わったニュースが流れました。

 3月15日に、荒木大輔1軍投手コーチがアキレス腱縫合手術を受けたというものです。キャンプ中の投手についてのコメントで名前を見た気がしていたので、いつの間に、なぜそんなことになっていたのかという疑問がまずありますが、それは置いておいて。

 日本ハムでは2015年、当時2軍内野守備を担当していた小坂誠コーチがキャンプ中にアキレス腱を断裂、手術したことがありました。夏を迎える前だったか、鎌ケ谷でノックを打つ姿を見て「もう復帰できたのか!?」と驚いた覚えがあります。

 コーチ業は意外といっては失礼ですがハードです。味方の投手が燃え始めるとテレビに映るベンチで、投手コーチは監督のそばに立ち、試合を見守っていることがほとんどです。アキレス腱を手術でつないだばかりの荒木コーチに、その役目がしばらく果たせないのは自明です。

 では、現在の日本ハムで誰がその役割を務めているかといえば、厚沢和幸投手コーチです。

 前述した2日のロッテ戦、先発の吉田輝星投手がアップアップになると、マウンドにやってきたのもそうでした。ここで「あれっ」と思ったのです。「厚沢さんがマウンドに行くこと、これまであったかな?」と。

厚沢和幸コーチ

 厚沢コーチは1994年に逆指名ドラフト2位で日本ハム入団、球団が北海道に移転する前年の2003年まで現役生活を送りました。通算の1軍成績を確認すると42試合、0勝4敗0S、防御率5.37。念のため、名鑑を繰ってみました。今季12球団で投手を主な持ち場とするコーチは計64人、このうち1軍未勝利なのは厚沢さんだけです。ところがコーチ歴がとにかく長い。2004年に2軍投手コーチになったのを皮切りに、2010年まで1、2軍の投手コーチを歴任。その後スコアラーに転じますが2014年から再びコーチとなり、今に至ります。指導歴は実に15年目となり、現役投手として過ごした日数をとうに超えています。