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「9000万円失ってやっと気づいたんです」倒産寸前のSODが “マジックミラー号”を生み出せた“意外な理由”

『新・AV時代 全裸監督後の世界』より #2

2021/05/15

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, ライフスタイル, 社会

note

「女って特別な環境にあると脱ぎやすくなるじゃないですか。ハイになったら脱ぐんですよ」

「本橋さん。おれ、全裸シリーズで儲かったお金9000万円全額失ってやっと気づいたんですよ。テレビ屋の意地とプライドでAVを制作してきたけれど、心のどこかでおれって、裸を真正面から撮りきろうという心構えができてなかったのかもしれない。逃げてたんです。AVは女優に金を使えというのは当たり前のことなのに、全裸面接でひとりに支払うギャラ1万円、トータル50万円で大売れしちゃったもんだから、勘違いしちゃった。女なんかどうだっていいんだ、環境と映像でいくらでも売れるんだ、女に金使わず、ヘリコプター飛ばしたり、クレーン車に金使ってしまった。地上20メートルで女は怖がるだろう。だからサブタイトルで、究極のSMなんて付けちゃった。馬鹿でしたよ。いままでのAVはみんな同じからみじゃないか、だったら、おれたちテレビ屋が自分たちにしか撮れないAV撮ってみせるって、大胆不敵に勘違いしちゃったんです。AVってやっぱり女だったんです。9000万円失ってやっと気づいたんです。だからもう一度、おれたち、真正面からエロを撮ってみようと思うんですよ。この荷台の中に街行く女たちを呼び込んでどこまで脱がせられるか。一部始終撮っていくんです。やらせ無し。女って特別な環境にあると脱ぎやすくなるじゃないですか。ハイになったら脱ぐんですよ。海外に行けばハイレグビキニで堂々と浜辺を歩くじゃないですか。日常生活から離してあげると、女って弾けるんですよ。それからおれって、ゴールデン番組やってきた人間なもので、ヌケを気にするんですよ」

「ヌケ……つまり奥行きのこと」

「そうです。深夜番組って、低予算だからスタジオのセットも安上がりで、奥行きが無いでしょ。ゴールデンは予算もたくさんあるから、豪華なセット組んでたとえば、夜のヒットスタジオみたいな奥行きのある歌番組がつくれた。だから絵の迫力が違う。奥行きがあるといい絵になるんですよ。書き割りの前で撮るのは安い映像になっちゃう。おれたちがつくったマジックミラー号の映像、すごく奥行きがあっていい映像になってますから」

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 だだっ広い空間ではエロが拡散する、というテーゼにあえて高橋がなりは性懲りもなく挑戦しようとしていた。

 女で勝負するよりもあくまでも企画で勝負しようというテレビ屋の意地がある。

 空中ファックで致命的な傷を負い、やはりAVは女で決まると実感しながら、AV専門のプロダクションに女優を紹介してもらうことをいさぎよしとせず、路上を行き交う女たちを起用しようとしていた。

 その心意気は買いだろう。