メーカーと専属契約を結ばない演者“企画女優”を起用した「全裸シリーズ」で爆発的なヒットを記録したセクシービデオメーカー「ソフト・オン・デマンド(通称:SOD)」。しかし、その利益を費やして制作した新作は鳴かず飛ばずの売上で、経営状態は一挙に悪化した。そんな窮状を救ったのが、現在もなお新作が制作され続ける人気シリーズ「マジックミラー号」だ。当時SODの社長だった高橋がなり氏は、どのように「マジックミラー号」のアイデアを思い付いたのだろう。

 ここでは評論家の本橋信宏氏の著書『新・AV時代 全裸監督後の世界』(文春文庫)の一部を抜粋し、マジックミラー号誕生時の秘話を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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お笑い芸人がマジックミラーに隠れて脅かす深夜番組を見て

 全裸シリーズで稼いだ9000万円をすべて吐き出して強行された「空中ファック」はソフト・オン・デマンドの企業名を津々浦々に知らしめることに成功したものの、商業的にはまったくふるわず、本来は返品もきかないはずなのに、全国の販売店から突き返され、倉庫は空中ファックの売れ残り商品の山になってしまった。

 ソフト・オン・デマンドは業界を荒らしまくりながら、わずか1年足らずで倒産目前となり、異端のままその歴史を終えようとしていた。

 儲けた金でおとなしく、売れてる女優をキャスティングして地道にセルビデオ業界でやっていけばよかったものを、と冷笑が業界から浴びせられた。

 だが高橋がなりには、そんな道のりは唾棄すべきものでしかなかったのだろう。

 一場の夢として終わらせるのか、それとももう一花咲かせるのか。

 業界の鬼っ子は最後の賭けに打って出た。

 空中ファックのようなとてつもない予算はもう組めないが、残されたわずかの金でテレビ局の大道具セクションに依頼し、ある大道具を製作してもらった。

「今度僕らがつくったのはマジックミラー号というんです。テレビで飯食ってきたから、関係者価格、割安でつくってくれたんですよ」

 高橋がなりがマジックミラー号の前で誇らしげに解説しだした。

アダルトビデオの棚を背にするソフト・オン・デマンド社長(2004年時)高橋がなり氏  ©文藝春秋

「トラックの荷台を改良して、中から外は見えるけど、外からは見えないマジックミラーで荷台部分を囲って、街頭でナンパした女の子をこの中で脱がせるんです。まるで屋外で脱いでいる露出プレイみたいだけど、女の子も密室に閉じこめられて脱ぐよりもずっとこっちのほうが安心感があるでしょう」

 高橋がなりはテレビ屋らしく、深夜のテレビ番組でお笑い芸人がマジックミラーに隠れて脅かすというドッキリカメラ風のコーナーを見て、ふとマジックミラー号を思いついたという。